夏に冷房を切って鳥を留守番させていませんか?
年々暑さが厳しくなり、東北地方など本来涼しい気候の地域でも、猛暑に見舞われ畜舎のニワトリが大量に死亡してしまうなど、全国的に熱中症のリスクが高まっています。
※参考:読売新聞「水飲み場に集まりすぎて圧死も…猛暑で比内地鶏1770羽死ぬ」
ペットとして飼われている鳥も室温の上昇で、熱中症で死に至ることがあります。正しい知識を持って対策し、熱中症を予防しましょう!
熱中症になりやすい鳥種
ペットとして人気の小鳥は、本来熱帯や温帯地域に生息している種類が多いです。たとえば、セキセイインコやオカメインコはオーストラリア、ボタンインコはアフリカのサバンナ地域、文鳥は東南アジアのジャワやバリ島原産です。
しかしイメージに反して、彼らはそんなに暑さに強くないのです。32℃くらいを超えると、熱帯原産の鳥たちにとっても危険な温度になります。
寒い地域に生息している鳥は、なおさら暑さに弱いです。たとえば、北極圏を生活域のひとつにするシロフクロウは、寒さに備えて足先まで羽毛を持っています。こういったタイプの鳥の飼育には、本来の生息域に合わせた繊細な温度管理が必要です。
野鳥は木陰などの涼しい場所に移動できますが、ペットとして飼われている鳥はケージ内の温度がすべてです。どの品種の鳥も、適切な室温管理を怠れば、熱中症になる恐れがあります。
快適な温度は鳥の種類や年齢(雛なのか、体力のある大人なのか、シニアなのか)暑さに慣れているかどうかなどでも個別に変わります。何℃であれば大丈夫という温度を一律に述べるのは難しいですが、少なくとも30℃以上は警戒が必要です。
熱中症の原因と対策 ~要注意ケース3選~
ここからは以下の3つの「家庭で暮らす鳥が熱中症になってしまいやすいケース」をもとに、熱中症の対策・予防について詳しく解説します。
(1)エアコンを使用していないケース
(2)病鳥・雛の保温ミス
(3)日光浴中の温度上昇

獣医師 中道先生より
「扇風機を使っていたのに熱中症になってしまった…」というお話を伺うことがよくあります。正しい知識を持つことが大切です!
(1)エアコンを使用していないケース
飼い主さんが在宅中に冷房で涼しく生活している場合に、外出中や夜などに鳥のいる部屋のエアコンを切ってしまうと、鳥は暑さに順応していないので、急な温度上昇で熱中症をおこしやすくなります。
様子を見ることができない時間に冷房を切ってしまうことで、暑がっているサインに気づくことができず、手遅れになるリスクも高まります。
また、普段から冷房を使わずに暑さに慣らしていれば大丈夫かというと、そうとも言い切れません。
多少は慣れもなくはないのですが、室温次第では鳥自身の放熱力が追い付かず、熱中症に陥る恐れがあります。暑さに慣らすためにエアコンを弱めたいときは、必ず飼い主さんも同じ部屋にいて様子を見るようにしてください。飼い主さんの不在中には、エアコンをつけておきましょう。
温度計で実際の室温をチェック
エアコンを使用する際、かならずしも「設定温度=室温」になるとは限らないことに注意しましょう。
外気温や室外機の設置場所、エアコンの馬力などによっては、設定温度まで室温が下がらないことがあります。たとえば設定温度を25℃にしていても、外気温が40℃などの酷暑であれば、全力でエアコンが動いても30℃までしか下がらず熱中症をおこすといった事態もありえます。
ケージの近くには温度計を設置して、実際の室温を確認するようにしてください。
雛や病鳥、冬場に保温器具を使用する際も同様です。サーモスタットの設定温度以上になっていないか、かならず温度を実測してください。
真夏日でも「窓を開けて風」「扇風機」だけはNG!
お部屋で涼むのに扇風機を使っている飼い主さんも多いかと思いますが、高温環境下では「風をあびる」扇風機だけでは鳥の体温を下げる効果は期待できません。理由は、「鳥は羽毛に覆われているから」「鳥は汗をかかないから」です。
エアコンとの合わせ使いで室内の温度を均一にするサーキュレーターも同様です。
エアコンや扇風機、サーキュレーターは、小鳥が入ってしまうと痛ましい事故の心配がありますので、放鳥時は注意するとともに、使用時もカバーをつけることをおすすめします。
災害時に備えて氷をストック
停電などの緊急事態でやむをえずエアコンを使えない場合は、凍らせたペットボトル等をケージの上部や隣においてしのぐとよいでしょう。災害時に備えて普段から冷凍庫に入れておくと安心です。
【関連リンク】
いつ災害が来ようとも、鳥さんを守る!
(2)病鳥・雛の保温ミス
病鳥や雛鳥は、基本的に暖かい環境で飼育されます。保温器具を使うことも多いですが、その場合でも適温の上限は28~31℃程度まで。セキセイインコやオカメインコなどの代表的な小鳥でいえば、たとえ雛でも32℃以上は暑すぎます。
温度は目安として捉え、目の前にいる愛鳥のリアルな様子を最も重視しましょう。呼吸がハアハアと荒くなっていたら、少しずつ温度を下げましょう。
サーモスタットにも注意!

サーモスタットは、一定の温度に達すると保温を一時ストップする機能を持っています。しかし、温度センサーの設置を忘れてしまったり、センサーの場所が鳥の居場所とずれていたりすると、過熱されてしまいます。保温ミスによる熱中症は、冬場にも起こる場合があります。
(3)日光浴中の温度上昇
日光浴は鳥の健康に必要です。適度な紫外線はビタミンDの活性化にも役立つので、カーテンを開けて網戸越しで日差しを浴びることもあるでしょう。
しかし、夏の直射日光による温度上昇は急激です。短時間でも油断は禁物。日光浴中は、愛鳥の体調変化のサインを見逃さないために、目を離さないようにしてください。万が一に備えてケージの一部に日陰を作っておくと良いでしょう。

アニコムグループ獣医師 渡邉先生より
温度の他には湿度の観点も重要です。
同じ温度でも湿度が高いと、鳥さんの放熱行動(※)の効率性が落ちることなどが原因となり、熱中症リスクが上がってしまいます。
※嘴を開けて呼吸(パンティング)、翼を広げて熱を逃がすなど
熱中症の症状
熱中症の初期症状は、「口を開けてハアハアと喘ぎ呼吸をする(開口呼吸)」「翼を広げて脇の下を開く(通称ワキワキ)」などのサインに現れます。
鳥には人間のような汗を利用した体温調節機能がありません。口からの呼吸や脇の下からの放熱が頼りです。
こういったサインにすぐに気づいて涼しい部屋に移動できれば、回復できる見込みは十分あります。
症状が進行すると、ハアハアした喘ぎ呼吸により脱水が進み、血液循環が悪化します。鳥の種類によっては足の色で血色がわかるので、足や指が赤黒く見えることもあります。ここまで進行すると元気もなくなり、目を閉じて動けなくなることもあります。嘔吐やけいれんなどがみられることもあります。
さらに重度になり、高体温と循環不全が続くと、脳やさまざまな臓器も障害を受けます。
ゆで卵を冷やしても透明な白身には戻らないように、高熱でダメージを受けたたんぱく質はもう元には戻りません。残念ながら、重度の脱水や高体温で多臓器不全を起こしてしまうと、回復不能な状況に陥ることが多いと考えられます。
熱中症の応急処置と受診
万が一熱中症になってしまった場合、応急処置が命運を分けます。
初期症状であるハアハアしたり、翼を大きくワキワキしている様子に気づき次第、1分でも早く、まず飼い主さんが応急処置を行いましょう。
冷房や冷風で冷やす
ハアハアするのが落ち着くまでは、エアコンの冷風を直接当ててかまいません。
人間の場合は保冷剤を体に当てて冷やすこともありますが、鳥の体は羽毛に覆われています。涼しい空気を胸いっぱいに吸ってもらえば、体の内側から冷やすことができますし、冷風が当たれば体表も十分に冷やすことができます。ハアハアするのが落ち着いたら、冷風を直接浴びせるのは終えて、涼しい部屋のケージ内で休ませてあげましょう。
水分補給
水や経口補水液を飲ませます。涼しくなったことで元気になり、自分で水を飲めるようならそのまま飲水をさせてください。目を閉じてぐったりするようすがあったり、足の色が悪かったりなど、脱水が進行しているサインがあった場合は積極的な補水が必要です。
経口補水液があれば、スポイトなどでくちばしに水滴をたらして飲ませてください。セキセイインコなどの小鳥なら、30分~1時間ごとに一回10滴程度が目安。
経口補水液が家になければ、水道水でもよいので早く水分をとらせることを優先してください。無反応で飲み込まなければ、無理やり喉に流し込むのは危険なので、早急に受診しましょう。
病院への移動時の注意点
移動中の暑さを避ける必要があります。車を使う場合は、先にエアコンで十分に車内を冷やしてから愛鳥を乗せてください。徒歩等の移動の場合は、保冷材を入れた保冷バッグにケージを入れるなどの温度上昇対策をするか、近くでもタクシー利用の決断を。
動物病院で行われる治療
脱水が重度であれば点滴注射が行われることもありますが、小さな鳥には人間のような血管内への点滴は困難です。筋肉や皮下に輸液を注射しても、体に水分が広がるには少し時間がかかります。それでも、熱中症を起こした鳥に対してできる治療はそのくらいしかありません。重症の脱水で血圧が下がってしまい、ぐったりしている場合には、最善を尽くしても回復が難しい場合もあります。
まとめ

熱中症は鳥にとって致命的な事故で、重度になると回復が難しいこともあります。
しかし、適切な飼育環境を整備していれば、予防ができる病気でもあります。
「留守や夜でもエアコンを切らない」「日光浴中に放置しない」など、飼い主さんが気をつけてあげてください。