
メガバクテリア症は、どんな病気?
メガバクテリア症は、鳥類に胃炎症状を起こす感染性の病気です。
メガバクテリア(別名:マクロラブダス)という名前の酵母菌(真菌)が原因で、マクロラブダス症、AGY(Avian Gastric Yeast:鳥類の胃の酵母菌)などとも呼ばれます。
お迎えしたら、早めに感染の有無を確認しておきたい病気のひとつです。
さまざまな鳥類に感染しますが、鳥の種類によって発症のしやすさには差があると言われています。
症状が見られやすい代表的な品種は、セキセイインコ。他にも、マメルリハ、カナリア、キンカチョウ、オカメインコなどがあります。
幼鳥の方が発症しやすいですが、大人の鳥でも他の病気やストレス、疲労などにより免疫が低下し、抵抗力が落ちた状態になっていると、発症したり、ぶり返したりします。
メガバクテリア症の感染原因
メガバクテリア症は、うんちや嘔吐物を介して感染が広がると考えられています。
メガバクテリアは、鳥の胃の中で無症状のまま感染していること(潜伏感染)があり、無症状でも病原体が含まれたうんちが排泄されることで、感染が広がります。そのため、親子間や同じ生活環境で暮らしているといつの間にか感染してしまうことがあるかもしれません。
お迎えした鳥が潜伏感染をしていると、他の病気やストレスにより抵抗力が下がったときに、メガバクテリア症を発症する恐れもあります。
おうちにお迎えしてからは、ストレス対策をし、特に症状がなくても動物病院で検査を受けると良いでしょう。
一方で、検便での検査精度は限界があり、検査時のうんちにはメガバクテリアは出ていないけれども、胃の中に潜伏していたというような場合には、発見が難しいこともあります。
メガバクテリア症の症状
体重低下・削痩(痩せる)
メガバクテリアに感染し、なんらかの症状が出ている鳥のうち、約半数の個体に削痩症状が見られるという報告があります。
健康時の適正体重から10%以上減少した場合は、受診しましょう。日頃からの健康管理のために適正体重を把握することは大切です。動物病院で健診時などに確認することをおすすめいたします。
食欲不振
インコなどの鳥は飛ぶことに特化した身体のつくりをしているため、食べだめができず、身体にエネルギーを蓄える力も乏しいです。
半日食べなければ、かなり心配なサインなので、食欲不振に気づいたらすぐ受診しましょう。
また、食べていても消化不良で痩せてしまうことがあります。体重が減っていれば受診しましょう。
黒い便・つぶつぶ便
胃炎による胃からの出血で、血液が黒い色になってうんちに出ることがあります。
チョコレートソースや海苔のつくだ煮のような黒いうんち(メレナ・タール便)は、消化管出血を疑うサインです。
また、砂嚢(さのう)※まで症状がおよぶと、穀類の消化がうまくできなくなるため、食べた種子類がそのまま出てくるつぶつぶした便が見られることもあります(完穀便、全粒便)。
※砂嚢:鳥類が持つ2つの胃のうちの1つ。
膨らむ・元気がない・じっとしている
活動量が減り、寒くなくても羽を膨らませて丸くなったり、前傾姿勢でじっとするなどのサインが見られることがあります。
嘔吐
胃炎症状により、嘔吐が起こります。
セキセイインコなどのインコ類が嘔吐するときは、首を水平に振り、吐物をまき散らすこともあります。
くちばしや顔周りが汚れているときは、嘔吐の可能性も疑いましょう。
※発情での吐き戻しとの違いは?
成熟した男の子は発情に伴い吐き戻しをすることもあります。
そのため、病気による嘔吐か吐き戻しなのか迷うこともあるかもしれませんが、以下の吐く位置の傾向と月齢が見分けるヒントになります。
■吐く位置の傾向
発情の吐き戻し:ある程度決まった位置に吐くことが多い
病気による嘔吐:まき散らすことが多い
■月齢
性成熟の月齢は、セキセイインコで生後6~7ヶ月、オカメインコで6~9ヶ月ごろが目安です。
品種や個体差もありますが、おおむね生後6ヶ月以下の幼鳥は性成熟がまだかもしれません。
発情の吐き戻しと思いこまず、早めに受診することが大切です。
吐いていなければ大丈夫?
上記にあげた体重減少や食欲不振、嘔吐などの症状はメガバクテリア症の代表的なサインではありますが、感染していれば確実にこれらの症状があらわれるわけではなく、症状は個体ごとに異なります。
2019年に報告されたセキセイインコのメガバクテリア症の疫学調査では、体重減少は半数強、嘔吐や食欲不振が見られた割合は、それぞれ3割程度というデータがあります。
「○○の症状がないからこの病気ではないだろう」とは言い切れないこともあります。不調のサインがあれば早めに受診してください。
メガバクテリア症の診断方法
メガバクテリア症の診断は、うんちの中にメガバクテリアがいるかどうかを調べる方法が代表的です。
顕微鏡で観察して、特徴的な見た目のメガバクテリアを見つける方法と、うんちの中にメガバクテリアの遺伝子がないかを調べる方法(遺伝子検査)があります。
顕微鏡で観察する方法
メガバクテリアがいるかどうかをすぐに調べたいときに向いています。
■メリット
・動物病院内で実施可能なことが多いので結果がすぐにわかる
・検査費用が安い
■デメリット
・検出感度が遺伝子検査に劣る
遺伝子検査
症状がないけれどもメガバクテリアの潜伏感染がないかを確認したい場合や、顕微鏡ではメガバクテリアが見つからないけれども、体調不良があるというときなどには、より精度の高い遺伝子検査が役立つこともあるでしょう。
■メリット
・顕微鏡では見つけられないごく少数のメガバクテリアを検出することができる
■デメリット
・糞便や嘔吐物を検査センターに送って調べてもらうので、数日程度の時間を要する
・PCR法を使うので、検査費用が高額になる
この遺伝子検査で調べているのは、メガバクテリア(酵母菌)の遺伝子がうんちなどに混じっているかどうかであり、鳥の遺伝子を調べているわけではありません。鳥の生まれつきの性質などについては評価できませんので、注意しましょう。
メガバクテリア症の治療法
真菌の感染による病気なので、抗真菌薬の投与が治療の中心となります。
抗真菌薬の種類は複数あります。
また投与の仕方も口に直接垂らしたり、飲み水に混ぜたり、皮下注射で与えたりといった、様々な方法があります。
なかなか治らない場合は、与え方を変えたり、複数を組み合わせたり、薬剤を変えたりして治療することもあります。
また胃炎症状に対しては、胃酸を抑える薬や胃を守る薬などを使うこともあります。
消化不良がある場合は、ごはんを種子ではなくペレットにしたり、流動食に切り替えたりなどの対応をすることもあります。
通院の際は、与えている食事の内容も伝えると良いでしょう。
メガバクテリア症の治療期間
メガバクテリア症の治療は、1ヶ月程度は必要になることもあると考えて、しっかり続けることが大切です。
主な治療となる抗真菌薬の使用には1~2週間程度から、数週間以上必要になることもあります。
年齢が上がるにつれて平均的な治療期間が延びるという報告があり、1歳未満の若い子と比べると中高齢の方が、治療期間が長くなる傾向にあるようです。
メガバクテリア症のセキセイインコに抗真菌薬の投薬を行い、糞便を顕微鏡で観察してメガバクテリアがいなくなっているかどうか確認した調査では、メガバクテリアが認められなくなるまで1歳未満では約18日、7歳以上では約42日かかったと報告されています。
うんちにメガバクテリアが出なくなっても、体調不良のサインが続いていれば、さらに治療が長くなることもあります。
メガバクテリア症の治療費の目安

『みんなのどうぶつ病気大百科』によると、鳥のメガバクテリア症における通院1回あたりの治療費は4,158円程度、年間通院回数は3回程度です。※2024年5月時点
診察料、検便料、抗真菌剤などの薬剤料が、おおよその内訳になると思われます。
遺伝子検査を行った場合は、この平均的な金額を上回ると考えられます。
症状が重い場合やほかの病気も疑われる場合は、入院治療や他の検査などで、さらに治療費が高額になる可能性もあります。
また、食事を変更する場合や流動食を使う場合は、病院での診療費以外のケア費用も必要です。

なかなか治らないときは?
メガバクテリアの治療期間は数週間以上かかることもあるため、なかなか治らず焦ることもあるかもしれません。
メガバクテリア症には、それぞれの個体が持つ抵抗力も大きく関与します。
まずはストレスをかけないよう、温度や湿度管理、騒音対策など、おうちでできることをやってみましょう。
お薬を与えていてもなかなか治らない場合、薬が効かないのではないかと心配になるかもしれませんが、抗真菌剤にはいくつかの種類や投与方法があります。
薬の投与方法、投与間隔や時間なども含めて動物病院と相談し、無理なく治療を継続できるようにしましょう。
メガバクテリア症の予防法
感染リスクを下げるためには、他の鳥のうんちや吐物の飛沫と接触させないという方法があります。
おうちにお迎えした後の予防対策は、発症対策と早期発見治療です。ストレスや抵抗力の低下、他の病気での体力消耗などが発症のきっかけになりうるので、飼育環境と栄養状態を良好にして、定期的な健診を受けましょう。
ストレスを与えないためには、温度管理も重要です。発情の管理などの事情で暖かくしすぎないこともあると思いますが、急な寒さなど、激しい温度差は疲れの原因になるため注意しましょう。
メガバクテリア症による胃炎症状は、進行すると胃潰瘍など重症化することが考えられますし、長期の胃炎は胃がんと関連するのではないかという見解もあります。できるだけ早期発見、早期治療したいものです。
おうちにお迎えしたら、とくに症状がなくても、うんちをもって動物病院で健康チェックを受けるとよいでしょう。
その後も定期的に健康診断を受けることをおすすめします。

まとめ
メガバクテリア症は家庭内で飼育される鳥によく見られる感染症のひとつです。潜伏感染することもあり、無症状でも感染しているということもあります。
鳥をお迎えしたら、うんちを持参して動物病院で健康チェックを受けましょう。