病気と上手く付き合おう(04)<膝蓋骨脱臼(パテラ)について>

 

わが子の愛らしい寝顔を見つめながら、「ずっと健康でいてほしい」と祈るような気持ちでつぶやいた経験のある飼い主さんも多いのではないでしょうか。一方で、体質や遺伝が原因となったり、加齢に伴って起こる病気もあり、予防や完治が難しい病気もたくさんあります。我が家のどうぶつが病気になったとき、少しでも良い状態で過ごせるよう、しっかりと支えてあげたいですね。そのためには、動物病院での処置や治療はもちろん大切ですが、食生活などの普段の生活環境が重要な役割を果たします。そこでお世話をされる飼い主さんとどうぶつが、病気と上手くつきあうために大切なことを紹介いたします。
今回は小型のに多い「膝蓋骨脱臼(しつがいこつだっきゅう)」についてのご案内です。

どんな病気?

膝蓋骨脱臼とは、どうぶつの後肢の膝蓋骨(膝にある皿のような骨)が正常な位置から内側、または外側に外れてしまう状態をいいます。膝蓋骨を英語でpatella(パテラ)ということから、膝蓋骨脱臼を「パテラ」とも呼びます。小型のでは、膝蓋骨の内側への脱臼(内方脱臼)が多くみられます。大型のでは内方脱臼もみられますが、膝蓋骨の外側への脱臼(外方脱臼)も比較的多くみられます。の膝蓋骨脱臼では内方脱臼が多いようですが、の膝蓋骨脱臼はほど一般的ではありません。
膝蓋骨脱臼が起こる原因としては、膝関節や膝関節周囲にみられる先天的な形態の異常や、後天的な外傷などの外的要因によって、あるいは骨に関連する栄養障害などが挙げられます。

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膝蓋骨脱臼 <犬>

膝蓋骨脱臼の症状

無症状な状態から歩くことが困難な状態までと幅が広く、一般的に程度(グレード)により次の4段階に分けられています。
 

グレード 症状
グレード1 膝蓋骨は正常な位置にあります。膝をまっすぐ伸ばして膝蓋骨を指で押すと脱臼を起こしますが、離すと自然に元の位置に戻ります。
普段の生活の中では脱臼を起こすことはまれで、無症状のことがほとんどです。
激しい運動をした後などに跛行※(はこう)がみられます。
たまにスキップのような歩行をすることがあります。
※疾患やケガが原因で正常な歩行ができない状態を跛行(はこう)といいます。
グレード2 膝蓋骨は正常な位置にあるのですが、膝を曲げると脱臼してしまいます。
脱臼した膝関節は足をまっすぐにしたり指の力で押したりしないと元には戻りません。
日常生活にはそれほど支障はありませんが、脱臼しているときには跛行がみられます。
足を後ろに伸ばして脱臼を整復しようとするしぐさがみられることがあります。
脱臼が元に戻ると普通に歩けるようになりますが、時間の経過とともに、膝の靭帯が伸びたり骨が変形を起こしたりすると、グレード3に移行してしまう場合があります。
グレード3 通常、膝蓋骨は脱臼したままの状態となり、指で押すと一時的に元の位置に戻ります。
跛行が顕著となり、腰をかがめ、内股で歩くようになることが多くみられますが、跛行の程度は軽度であり、全く跛行を示さない場合もあります。
骨の変形も明らかになってきます。
グレード4 膝蓋骨は常に脱臼した状態となり、指で押しても整復できません。
骨の変形も重度となり、膝の関節を伸ばすことができないので、足を曲げてうずくまるような姿勢で歩いたり、最小限しか地面に足を着けないような歩き方になったりします。

 

膝蓋骨脱臼の治療

消炎・鎮痛剤による内科療法やレーザー治療など、一時的に炎症や痛みなどの症状を緩和する「保存的治療」と外科手術による「根本治療」とがあります。

1.保存的治療
「グレードが低く臨床症状を伴わない場合」や「麻酔処置のリスクが高いと考えられる場合」などに選択されます。消炎・鎮痛剤やレーザーなどの使用により、一時的に関節炎症状を抑えるのが目的です。膝関節や関節周囲の構造自体が変化する訳ではないので完治は望めませんが、保存的治療を行いながら生活上の注意点を十分にケアすることで、再脱臼による関節炎を防ぎ良好に維持できるケースもあります。関節の健康・維持に配慮した食事やサプリメントなどを取り入れることもあります。
しかしながら、脱臼による関節炎を頻繁に繰り返す場合には、二次的な関節の変形を引き起こすこともあり、そのような場合には外科手術が勧められます。

2.外科的治療
膝蓋骨脱臼は、「大腿骨滑車溝(だいたいこつかっしゃこう=膝のお皿がのっている溝)が浅い、もしくは平坦であること」、「膝のアライメント(膝関節の傾き)が不良であること」が主な原因のため、外科的治療はその整復となります。具体的には次のような手術法が挙げられます。

・膝の溝を深くして、膝蓋骨が滑車溝を乗り越え難くする。
・ピンを打つことで膝蓋骨を支えている大腿四頭筋(だいたいしとうきん)を固定する。
・膝蓋骨を正しい位置に保持するため、必要な靱帯(じんたい)を適切な長さに縫い縮めて外れ難くする。
・正常な位置に膝蓋骨を戻した状態でみたとき、膝蓋靱帯(しつがいじんたい)全体がゆがんでいる場合には、膝蓋靱帯の下方付着部である頸骨粗面(けいこつそめん)を移動してまっすぐに矯正する。

症状の有無やグレード、臨床経過、関節周囲の状態などによって、手術法や適切な手術時期を選択します。グレードが高い場合や関節炎症状が頻繁に起こる場合には、骨や関節に二次的な変形が起こってしまってから手術を行っても効果が低くなるため、早期の手術が勧められます。
手術が成功するかどうかは、手術後の安静と適切なリハビリを行うことができるかどうかによっても大きく変わってきます。の性格(入院生活に耐えられるか、安静にできるかなど)や退院後の家での受け入れ態勢なども含めて、よく検討してから手術を受ける必要があります。術後の安静期間や、どのようなリハビリが必要かについては、手術方法や個々の状態によって変わってきます。あらかじめ主治医の先生とよく相談し、準備をしておくようにしましょう。

◇ケージレスト(安静療法)について
痛みが出ている部位を休ませてあげることも保存的治療では重要です。また、外科的治療においても、手術後いかに安静にするかは、その後の状態を左右します。ケージレストとは、の運動を制限して安静を管理する方法の一つで、狭いケージの中にを入れ、動きを制限した状態を保ちます。
状態が落ち着いてきたら、適正体重を維持し、筋肉を落とさないために、ある程度の運動は必要ですが、主治医の先生とご相談いただきながら、少しずつ始めるようにしましょう。

 

看護のポイント

1.体重管理
体重の増加は膝の関節に負担をかけますので、体重を増やしすぎないことはたいへん重要です。
ただし、体重を気にするあまり筋肉を落としてしまうと、今度は膝関節にかかる負担が大きくなり、逆効果のこともあります。膝に負担をかけない適度な運動で、筋肉を維持しながら体重管理をしましょう。

2.室内環境
いつも生活をする部屋の床は滑らないようにして、膝に負担をかけないようにしましょう。
フローリングの床は滑りやすいので、滑り止めのワックスをかける、マットを敷くなどの対策をしましょう。また、足裏の毛が伸びてくると滑りやすくなりますので、こまめにカットをしましょう。
ソファーや段差の昇り降りが膝に負担をかける場合もあります。
スロープを設置したり、飛び降りそうな所があれば登れないようにするなど、室内の危険個所を見直しましょう。

3.運動について
膝に大きな力がかかるような運動や膝をひねるような運動は膝関節に負担をかけてしまいますので、脱臼を起こしやすくなります。また、膝をまっすぐに伸ばす動きも脱臼を起こしやすくします。
ジャンプや激しい運動、ピョンピョンと飛び跳ねたり、クルクルと回ったりさせることは避けましょう。
急な方向転換も、膝に無理な力がかかりますので要注意です。
筋力の維持と体重管理のためにお散歩は大事ですが、膝に負担がかからないように、滑らない段差のない所をまっすぐゆっくり歩くようにするとよいでしょう。
また、炎症や痛みがあるときは無理に散歩や運動をさせず、安静にすることが必要です。
お散歩や運動の量については主治医の先生と相談して決めるようにしましょう。

飛び跳ねたり、回ったりするような習慣が付いているの場合、止めさせようと声をかけたり思わず目を向けたりすると、「飛び跳ねたり、回ったりすると構ってもらえる」とに思わせてしまうことがあります。もし、声をかけるのであれば、落ち着いた低い声で、毅然と伝えます。
止めさせたいときは、例えば、窓をあけて「あら、何かしら」など声をあげるなど、の気持ちを他のことにそらすとよろしいでしょう。ただし、気持ちをそらせようと、ボールを見せたり、オヤツで気持ちをそらせたりするなど、にとってご褒美にあたることはしないようにしましょう。が 飛び跳ねたりするときの雰囲気から、「構って欲しい」という様子がみられるのであれば、飼い主さんが背を向けて、その場を離れるのもよろしいでしょう。

4.健康状態の観察ポイント
膝蓋骨脱臼は、なるべく早期に発見し、関節や靭帯、骨の変形などの二次的な問題が出る前に適切な治療を選択することが重要です。また、トイ・プードルやチワワ、ポメラニアンなどの小型犬種は膝蓋骨脱臼にかかりやすい犬種(好発犬種)です。我が家のが好発犬種の場合は、特に気になる症状がみられなくても、ワクチン接種時など日頃から定期的に膝の状態を診てもらっておくと安心です。次のような症状が見られる時や、遊んでいて急に鳴いたり、特定の体の部分を触ると嫌がる様子がみられるときには、特に注意しましょう。
◇スキップをするような歩き方をすることがある。
◇片足を後ろに伸ばすしぐさがみられる。
◇ジャンプや運動を嫌がる。
◇不自然な歩き方だと思うことがある。
◇足の骨が曲がっているのではないかと思うことがある。

 

病院のかかりかた

膝蓋骨脱臼を持つが、何かの拍子に膝を痛めてしまったのではないかと心配される時は、出来る限り安静にして、早めに動物病院を受診するようにしましょう。
消炎・鎮痛剤の投与やレーザー治療などを受けると、一時的に痛みが緩和されて動けるようになることがありますが、関節の炎症が治るまでには日にちを要する場合もあります。
症状が落ち着いても、治療を自己判断で中断することなく、安静や運動制限の指示はきちんと守るようにしましょう。
また治療や外科手術後のリハビリの一環でマッサージの指導などを受けた場合は、方法や回数、期間などを守るようにしましょう。家での看護は、病院での治療に負けないくらい効果を発揮することがあります。根気よく続けて、かかりつけの先生に経過を診ていただくようにしましょう。

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みなさんからのコメント

Comment
MIKU
2022-07-31 19:55:03
シーズーの♀、6歳です。5月に散歩中足がおかしくなり、帰宅後ぺたんと尻もちをついた形で座り込んでしまい、
何度も何度も素早い動きでとぐろを巻いて寝ようとするので病院に連れて行くと膝の皿がずれてると。
その後何度も右後ろ足を伸ばしていて、自分で戻してました。今回は普通に歩けているけどまたとぐろを巻いて寝よう寝ようとします。
パテラにあると言われるスキップやケンケンがなくてもパテラでしょうか?
アニコム獣医師
2022-08-03 10:01:25
>MIKU様
膝蓋骨脱臼の代表的な症状がスキップや足を挙げるといった様子ですが、他にも歩きたがらない、足を引きずる、膝を気にする、膝を舐めるなども見られることがあります。他の部位の関節や骨、筋肉など運動器の異常や神経系の異常などの場合にも、膝蓋骨脱臼に似た症状が見られることもありますが、診断には実際のわんちゃんの様子を見たり、触診やレントゲン検査等の検査が必要になります。
MIKU
2022-08-03 11:33:54
回答ありがとうございます。
別件も兼ねて病院に連れていく頃には前述した行動がなくなり、足を引きずったり膝を舐めるといった行動もなく本犬が元気なので取り合えず様子見する事にしました。
以前診察を受けた際は「再発もあるから気をつけて」と言われていたので引き続き気をつけます。
アニコム獣医師
2022-07-21 14:13:48
>たんたん様
膝蓋骨脱臼の場合、グレードや症状の有無等により手術を実施するか判断します。症状が見られなかったり、軽度の場合には、鎮痛剤やサプリメント等の内服や膝に負担のかかりにくい環境整備等により様子を見ることもありますが、脱臼した状態が続くことにより、骨や靭帯、関節がダメージを受けてしまうこともあります。術後の管理も、術後の状態により様々ですので、手術については、主治医ともよくご相談ください。
たんたん
2022-07-16 23:24:23
しかし、先生から、本人が元気に走ったり、散歩したり出来ているのであれば手術をしないで様子をみるのも選択肢の一つであり、実際手術をしても完全に治らない可能性もあるので、私達も手術はできれば避けたいです。本人は凄くやんちゃなので、手術をしても2週間ゲージレストをしなければならず、それに耐えられるか不安なところもあります。どうしたらいいでしょうか?

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