
ペットと災害の歴史|その時、動物たちは
2023.09.11災害のニュースを見るたびに、「被災地にいるペットや動物たちは大丈夫かな?」「わが子だったらどうしよう」そう考える飼い主さんが多いと思います。
この記事では、これまでに日本で発生した大災害で、ペットや動物たちが、どのような状況に置かれたのかを振り返り、みなさんと一緒に「自分もどうぶつも守る防災」について考えていきます。
1923年9月1日
関東大震災
▲1923年9月1日の浅草仲見世通り 提供:防災システム研究所 山村武彦氏
関東大震災は、9月1日「防災の日」制定の由来となった大震災です。
首都圏などが、現在の震度7に相当する激しい揺れに襲われ、東京都や神奈川県を中心に11万棟近くの住宅が全壊。発生時刻が昼食時だったということもあり、火災による焼失建物は21万2,000棟を上回りました。また、死者・行方不明者は10万5,000人を超え、電気、水道、道路、鉄道等のライフラインにも甚大な被害をもたらしました。
当時、国内有数の動物園として人気を博していた「浅草花やしき」も被災し、飼育されていた動物の多くを猛火の中で避難させることが難しく、薬殺・射殺されたといわれています。
しかし、中には助かった動物もいました。
防災システム研究所 山村武彦氏のレポート「関東大震災のちょっといい話/7万人の命を救った浅草公園の人々」によると、タンチョウ、ペリカン、熊5頭、鹿2頭、小象1頭は、花やしきの園丁の方によって救い出され、避難することができたそうです。
「動物園や水族館の防災対策は?」「災害時に動物たちはどうなるの?」そんな疑問を持っている方が多いと思います。
現在では、多くの動物園・水族館が定期的に防災訓練を行っていて、発電機や貯水槽など非常事態に備えた設備を設置しています。
▲脱走したライオン(着ぐるみ)が飼育員と遭遇したシーン 撮影・提供:天王寺動物園
天王寺動物園では、定期的に防災訓練を実施しています。
2022年11月に行った防災訓練では、大地震の影響で倒れた木を伝ってライオン1頭が脱走したという設定で、負傷した職員の救護や、ライオンの捕獲のシミュレーションをしました。
着ぐるみのライオンが一見ユーモラスに見えますが、捕獲用具や麻酔銃の準備など、動物が脱走した際の重要な対応を細かくチェックしながら取り組んでいます。
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1995年1月17日
阪神淡路大震災
淡路島北部を震源地とし、震度7を観測。社会経済的な諸機能が集まる都市を直撃した初めての直下型地震であり、死者・行方不明者6,435人、負傷者4万3,792人という甚大な人的被害をもたらしました。
ペットや動物たちへの被害も大きく、約9,300頭(犬約4,300頭、猫約5,000頭)が被災(飼い主とはぐれたり、負傷するなど)したといわれています。
戦後50年間、近畿地方に大きな地震発生がなかったため、人のための備えはもちろん、ペットや動物たちのための備えも不十分でした。
兵庫県南部地震動物救援本部活動の記録編集委員会が作成した、「大地震の被災動物を救うために : 兵庫県南部地震動物救援本部活動の記録」p5(1996)によると、彼らに与える食べ物の用意はなく、負傷動物を手当てする術もなく、迷子動物を探す余裕もなかったため、被災者の中には一時的にペットを預けたり、飼育を断念したりする人もいたそうです。
自分もわが子も助かるためには、やはりもしもの時の備えが必要不可欠です。
定期的に防災用品・避難先・避難方法を点検し、シミュレーションを行いましょう。
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▶ペットの飼い主が地震に備えておくべきこと
2011年3月11日
東日本大震災
三陸沖を震源とし、宮城県北部で最大震度7が観測された巨大地震。死者・行方不明者2万2,318人、負傷者6,242人、10年以上経った2023年5月時点でも、いまだに約3万人が避難生活を送っているといわれています。東日本大震災の大きな特徴とされるのが、この巨大地震がさまざまな災害を誘発した複合災害であった点です。
地震・大津波・大規模停電・原子力災害など、その影響は東北地方のみならず全国に及びました。
犬の被災頭数は、約6,500頭、猫の被災頭数は約6,400頭といわれています。
福島県では、福島第一原子力発電所で発生した原発事故の影響により、多くの地域住民がペットや家畜を含む動物たちを残したまま緊急避難をしなければならない事態となりました。
取り残されたペットや動物たちは、餓えや病気で死んでしまったり、野生化して生き延びたと考えられており、ボランティアが中心となってペットや動物たちの保護活動を行っています。
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2015年5月に惜しまれつつも閉館した、「マリンピア松島水族館」も被災しました。
宮城県沖で地震が発生する確率は高いといわれていたことから、同館ではもしもの時の備えをしており、津波が押し寄せてからわずか43日後に営業を再開することができましたが、地震と津波の影響で300種4,000頭いたうちの、60種200頭が亡くなってしまったそうです。
「マリンピア松島水族館」の閉館後は、後継館である「仙台うみの杜水族館」が2015年7月にオープンし、“復興を象徴する水族館”として多くの方に愛されています。
水族館で暮らす動物たちのための備えとして、発電機を屋上に置いたり、海水を常時およそ1週間分を備えられるように設計しているだけでなく、津波が起きた場合に観光客や近隣住民が避難できる津波避難ビルとして設計するなど、震災の教訓を活かした運営がなされています。
2016年4月14日
熊本地震
熊本県熊本地方を震源とし、震度7の本震が2回、その後の余震も震度6を超えるものが多く発生しました。
衝撃的だったのが、熊本城の倒壊。熊本県はすぐに復旧作業に取り掛かり、2021年に天守閣と重要文化財の長塀の復旧工事が完了しましたが、すべて完了するのは2037年頃の予定です。
ペットの被害も多く、震災後に熊本県と熊本市が保護収容した「放浪状態」のペットの数は、犬1,094頭、猫1,405頭。このうち飼い主が見つかり返還できたのは、犬400頭、猫に至ってはわずか11頭でした。
迷子札やマイクロチップなど、所有者がわかるようなものを装着していれば、飼い主のもとに帰れる確率が高まります。平時のうちに対策を行いましょう。
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また、一部の避難所において室内同居ができないことの解釈を誤り「ペットと同行避難はできない」とSNSで拡散されたことで、被災地に混乱が生じる事態があったそうです。また、避難所屋内へのペットの持ち込みが不可だった避難所では、車中泊する避難者が多くみられました。
避難可能な範囲の避難所を調べ、その避難所でわが子がどういう状況で過ごすことになるのかをリサーチしておくと安心です。当日の混乱や不安を、少しでも軽減することができるでしょう。
【アニコムグループの支援活動】
熊本県獣医師会からの派遣要請を受けて現地へ向かい、VMAT(災害派遣獣医療チーム)を擁する福岡県獣医師会と協働して獣医療支援を行いました。
2018年6月28日~7月8日
平成30年7月豪雨(西日本豪雨)
西日本を中心に広い範囲で記録的な大雨となり、各地で河川の氾濫や土砂災害が相次ぎ、死者・行方不明者245人、負傷者432人という甚大な被害が発生しました。
暑さが本格化する時期だったため、被災者・被災ペットともに問題となったのが「熱中症」でした。
鳴き声やアレルギーの問題で、ペットを室内に入れることができないため、野外にケージを置くスペースを設けている避難所もあります。当然のことながら、猛暑の中で外にペットを置くのはとても危険です。
また、電気などのライフラインが停止している場合、室内も蒸し暑くなるので、熱中症になるリスクが高まります。
ペットの防災用品の中には、暑さ対策グッズ・寒さ対策グッズを必ず入れておきましょう。
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【アニコムグループの支援活動】
岡山県獣医師会の要請により、「どうぶつ用災害診療車」と3名の獣医師を派遣し、災害支援を行いました。
さいごに
日本は地震や台風、津波、豪雨などの災害が発生しやすい地形や地質であるため、これまでにもさまざまな災害に見舞われ、人間だけでなく、たくさんのペット・動物たちも被災しました。
過去の災害を学び、教訓とすることが「自分もどうぶつも守る防災」の第一歩です。
どんなときも、わが子を守ることができるのは飼い主だけ。日頃から準備とシミュレーションをして、大切な家族を守りましょう。
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【参考】※外部サイトへ移動します
・内閣府「報告書(1923 関東大震災)」第1章 被害の全体像
・防災システム研究所 関東大震災のちょっといい話/7万人の命を救った浅草公園の人々 関東大震災と小象の話
・台東区文化探訪アーカイブス 浅草花やしきの歴史は、日本の激動の時代とともにありました。
・地方独立行政法人天王寺動物園 令和4年度防災訓練を実施しました
・兵庫県南部地震動物救援本部活動の記録編集委員会 大地震の被災動物を救うために : 兵庫県南部地震動物救援本部活動の記録
・内閣府 阪神・淡路大震災復興誌 第1章阪神・淡路大震災の概要と被害状況
・環境省 災害、あなたとペットは大丈夫?人とペットの災害対策ガイドライン<一般飼い主編>
・消防庁 平成23年(2011年)東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)の被害状況(令和5年3月1日現在)
・一般社団法人ペットフード協会 平成23年全国犬猫飼育実態調査 主要指標のまとめ
・NHK 知っトク東北 「葛藤しながら 生きものを守り抜いた3.11」~旧マリンピア松島水族館・設備責任者 浅野祐市さん~
公開日:2023.8.29