2016年熊本地震の支援記録

2022.12.08

2016年4月に発生した熊本地震。この災害発生を受けアニコムでは、被災したペットとその飼い主の支援のため、のべ8名の獣医師を現地に派遣しました。先発隊は震災直後に物資の運搬を、後発隊は熊本県・福岡県の獣医師会と協働し、現地の獣医療支援活動を実施しました。本記事では、後発隊として被災地支援を行った獣医師が現地で見たこと、感じたことをまとめました。

アニコムの『どうぶつ用災害診療車』

アニコムのどうぶつ用災害診療車アニコムのどうぶつ用災害診療車

実はアニコムでは、2011年の東日本大震災の際にも、災害支援を行った経験がありました。東日本大震災では、津波で多くが流されてしまったことから獣医療支援が非常に困難を極めました。そのためアニコムでは、災害直後に被災地でも活動できるようにと『どうぶつ用災害診療車』を導入していました。大型キャンピングカーを改装したこの車には、待合室・診察室・血液検査機器のほか、簡易ベッドやキッチンも装備されています。

熊本地震から10日ほど経った頃、アニコムは熊本県獣医師会からの正式な派遣要請を受け、この診療車とともに現地へ向かい、VMAT(災害派遣獣医療チーム)を擁する福岡県獣医師会と協働して獣医療支援を行いました。

 

被災地でのどうぶつたちの様子

熊本地震で被害を受けた町の様子
避難所となった益城町体育館の前どうぶつ用災害診療車とともに、アニコムではいくつかの避難所をまわりました。

震災から1週間程度が経ってからの現地入りだったので、今まさにケガをして救急医療が必要などうぶつがいる、といった事態はありませんでした。しかしながら、避難生活でストレスがかかり、元気や食欲の低下がみられる、下痢や嘔吐がみられるといったどうぶつが多くいました。

診察を受ける犬

ペットと避難生活を送るということ

ペットとともに避難してきた人用の避難所が用意されている場所もありましたが、それでも車中泊をしているという方も数多くみられました。理由は、「まわりに気を使うから」。

他のペットが近くにいると落ち着かず吠えてしまったり、じっとしていられなかったりする子もいます。あるいは怯えてしまい、ただでさえいつもと違う環境で不安なところに、さらにストレスがかかってしまう子もいます。そうした方々が車中泊を選択していたのです。

自家用車の中であればまわりに気を使わずに済む反面、4月ともなると気温が高い日もあり、熱中症のリスクもあります。また飼い主側にもエコノミークラス症候群のリスクもあります。そうしたリスクに対して、ボランティアや自治体の方々が注意を呼び掛ける場面も見られました。ペットとの避難生活の難しさを見せつけられた思いでした。

避難所となった建物の外で、犬とともに寝袋で寝泊まりする人も

そこにあるのに入れない家

“赤紙”が貼られ、入れなくなった家屋

赤や黄色の紙が門に貼ってある家がたくさんありました。なんだろうと思って見ると、赤い紙には「危険」、黄色い紙には「要注意」とあるのです。

これは『応急危険度判定』の調査結果を表示したもので、「危険」の場合は建物の基礎などが損傷を受けているため、たとえ見た目上倒壊していなくても立ち入ることは危険と判断されたことを示します。「要注意」の黄色は立ち入りの場合は十分注意するように、「調査済」の緑はその建物は使用可、を示します。

家族と大切な時間を過ごしてきた場所が突然奪われるというのはどれだけ辛いことなのか、想像するだけで胸が張り裂ける思いでした。

飼い主の方のことば

避難所の近くの木に繋がれた犬。水皿が置かれ、飼い主が定期的に世話をしに来ているのだと思われた

どうぶつがいるから避難所に入れないという人も、どうぶつがいるから家から避難できないという人もいました。皆疲れた様子をにじませてはいても、この子が無事でよかったと笑顔で言っていたのが本当に印象的でした。

一方で、家が無くなってしまったので、どうぶつを手放したいという人もいました。決して好きで言っている言葉ではないからこそ、もしも自分が同じ状況になったらどうするだろう、ということを考えずにはいられませんでした。

おわりに

熊本地震の発生から月日が経ち、復興のシンボルといわれた熊本城の天守閣は2021年に完全復旧を遂げ、熊本の人々にとっても明るいニュースとなりました。しかしながら、今もなお自宅の再建が困難で、仮設住宅や災害公営住宅に入居せざるを得ない方もいます。

いつ起きるかわからない災害に備えるのは決して簡単ではありませんし、どこまで備えても万全とは言えません。それでも万が一のときに、自分と大切なわが子を守るためにはどうしたらいいか。そうしたことを考えるきっかけとして、本記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

公開日:2017.9.1