どうぶつのターミナルケア( 3 ) 自宅で行うケア <食事のサポート> <猫>

 

我が家にやってきてくれた、愛しいこの子と過ごせる時間はきらきらと輝いていて、出会えたことを神様に感謝したくなりますね。ところが、犬や猫たちは時の流れを人の5倍ほどの速さで経験していて、寿命は人より短い、ということがずっしりと胸に響く日がやってきてしまいます。
いちばん考えたくないことですが、命の終着駅に至る道を、最後の力を振り絞り歩く我が子を、しっかりと支え、虹の橋へ送り出す日を避けることはできません。

ターミナル期は、お別れまでの時間を少しでも心安らかに過ごさせてあげる大切な時間ですが、この時期を迎えると、どうぶつはどうしても食欲が落ちてきます。言葉で意思を伝えることができないどうぶつを看護する上で、食欲の有無は体調を推し量るバロメーターになりますので、食事を摂ろうとしないと心配になり、何とか食べさせようと一生懸命になります。
ところが、この必死さが食事の時間を辛い時間にしてしまうこともあります。
食欲が落ちてきたどうぶつが、最期まで食事の時間を楽しめるように、無理なくおいしく食事ができるようなサポートについて考えてみましょう。

 

 

【ターミナル期の食事のケアで大切なこと】

 

 

1.できる限り、痛みや不快感を取り除く
ターミナル期のどうぶつは、慢性的な痛みや吐き気から食欲不振に陥っている場合が多くみられます。痛みや吐き気、不快感などを軽減するためのケアや治療を行うことで、再び食欲が出てきておいしく食べられるようになる可能性もあります。主治医の先生と良くご相談いただき、積極的に対応してあげるとよろしいでしょう。

2.どうぶつが自分から「食べたい」と思うような工夫をする
「何とか食べさせて、栄養を付けさせたい」と思う飼い主さんの気持ちは当然ですが、どうぶつにとって食事をすること自体が負担になり、「嫌なこと」、「辛いこと」になってしまうと逆効果です。無理強いはせず、自分から「食べてみようかな」と思わせるような工夫を心がけるようにしましょう。
 

 

 

【何を食べさせる?】

 

 

基本的には元気な時と同じ、今まで食べ慣れている食事を与えていただくとよろしいでしょう。理想的には、ライフステージに合った栄養バランスの取れた食事、特別な食事療法が必要な疾患(特に腎障害、肝障害、アレルギーなど)を持つどうぶつであれば、主治医の先生から指示されている療法食が食べられれば、それがベストでしょう。
ところが、食欲の低下がみられるターミナル期には、「飼い主さんが食べさせたいと思う食事を食べてくれない」という状況が多く見られるようになります。
口から食事を摂ることは、腸の消化機能を維持する上でも、体力や免疫力を維持するためにも 重要なことですが、いろいろと工夫をなさっても、どうしても食べられない場合は、「食べないよりは、何でも良いからとにかく食べた方が良い」と、理想的な食事にこだわらず、食べられるものを探してあげることも必要になってきます。 
ただし、疾患によっては、食べさせたことで病態が悪化する可能性があるなど、食べさせない方が良い食材、あるいは控えた方が望ましい食材がある場合があります。
がん細胞はブドウ糖をエネルギー源として好んで利用するというように、がんに罹患すると栄養素の代謝が健康なときと変わるというように、我が子の病気にはどのような配慮が必要か、どのような物なら良いか、必ず主治医の先生に相談しましょう。

また、人間では問題がなくても、どうぶつでは中毒を起こす可能性がある食材もありますので、十分注意をしましょう。どうぶつに与えない方が良いといわれている食材については、次の記事でご紹介しておりますので、参考になさってください。

異物誤飲に注意 (1)
http://www.anicom-page.com/all_education_details?type=14&id=76

 

 

おいしく食べさせるための工夫

 

 

食欲の落ちてきたどうぶつの食欲を少しでもアップさせるために、次のような方法を試してみましょう。

1 温める
香りを漂わせる程度に食事を少し温めると、食欲が増すことがあります。電子レンジ等で温めたり、ドライフードであればドライヤーの温風をあてたり、60度くらいのお湯をかけたりして、食事の匂いを立たせてみましょう。

2 風味を付ける
煮干しやカツオブシなどからとった出し汁やササミなどの肉の茹で汁をフードにかけたり、好みの肉や魚、野菜を風味付け程度に少量加えてみても良いでしょう。また、高栄養の療法食の缶詰や栄養補給用のペースト状のサプリメントなどを利用すると、少量で栄養を補給することができます。これらは食欲が落ちてしまった時でも食べられるように嗜好性が高く作られていますので、食事にトッピングすることで良く食べてくれることがあります。なお、治療のために食事制限をしている場合には、使用する食材に問題はないか、主治医の先生に相談してからにしましょう。

3 運動量を増やす
病状にもよりますが、体を動かすことは、お腹を空かして食事をおいしくするためにも大切なことです。体調が良さそうであれば、無理のない範囲で運動させてあげましょう。お天気の良い日など、おいしい空気を吸って、芝生の上を歩いたりベンチに座ってお話をしてみてはいかがでしょうか。

4 食事の時間を「楽しい時間」に演出する
食べることが嬉しくなるように、食事の時間には、「おいしそうだね」、「良く食べてお利口ね」と明るく声をかけてみましょう。反対に、食べられなくても、さらっと言葉もかけずに片付けてしまいましょう。明るい雰囲気で食事は楽しい時間であると思わせてあげましょう。

 

 

【からだの状態に合わせたサポートをする】

 

 

単に「食欲がない」というだけではなく、体の状態が原因で、食事を摂れない、摂りたくないという場合もあります。どうぶつの状態を良く観察し、より快適に、楽に食べられるようにサポートをしてあげましょう。
例えば、痛みや不快感があり、下を向いて皿に顔を近づける姿勢が辛いというのであれば、高さのある台の上に皿を置いてあげたり、口元まで食事を運んであげたりすると良いでしょう。
口の中に病変があって食べたり飲みこんだりすることが辛そうであれば、ドライフードをウェットフードにしたり、流動食にしてみるなど、食事の形態を変えてみることで食べられるようになる可能性もあります。
食欲があるようであれば、缶詰のフードやミキサーで砕いてふやかしたドライフード、ペースト状の手作り食などを、シリンジなどを利用して口の中に入れてあげるのも一つの方法です。口の中に入れた時にどうぶつがきちんと飲みこめているかを確認するようにしましょう。口に入れたまま飲みこまなかったり、出してしまったりする場合は、「食欲がない」「食べたくない」という意思表示の場合もありますので、無理強いをしないようにしましょう。

 

 

【食欲増進剤について】

 

 

痛みの緩和や食べさせるためのさまざまな工夫をしても食べない時は、食欲増進剤を使用してみるのも一つの方法です。現在のところ犬、猫に使用できる食欲増進剤にはメトクロプラミド(犬用、猫用ともに注射および飲み薬)、ジアゼパム(猫用に注射)、シクロヘプタジン(猫用に飲み薬)などがあります。一時的にこのような薬を使用して食べさせることで、「食べる」というリズムが作られ、体力が戻って薬がなくても食べられるようになるという場合もあります。状態にもよりますが、比較的副作用も少ない方法ですので検討していただくと良いでしょう。

 

 

【強制給餌(きょうせいきゅうじ)と経管栄養(けいかんえいよう)】

 

 

いろいろと工夫をしても、どうしてもどうぶつが食事を受け付けない場合などには、「強制給餌」あるいは「経管栄養」という方法があります。
「強制給餌」というのは、どうぶつに強制的に食事を与えることです。具体的にはウェットフードを指で上あごに付けたり、流動食や軟らかくしたウェットフードをシリンジなどで口の中に入れたりします。比較的手軽にできますが、「食べたくない時に強制的に食事を口の中に入れられること」がストレスとなってしまう場合もありますので注意が必要です。
一方、「経管栄養」とは、体外から消化管内に入れたカテーテル(チューブ)を利用して流動食を投与する方法です。犬や猫で一般的に行われるのは、経鼻食道チューブ、食道瘻(ろう)チューブ、胃瘻(ろう)チューブを利用する方法です。ストレスを与えることなく、どうぶつの食欲にかかわらず栄養的に理想的な食事を確実に摂取させることができます。
また、投薬を嫌がるどうぶつでも、チューブからストレスなく投薬が行えるという利点もあります。一方で、食道瘻チューブ、胃瘻チューブの装着には鎮静や麻酔処置が必要となり、どうぶつの状態によってはリスクを伴うこともあります。経管栄養法については、以下の記事でご案内しておりますので、参考になさってください。

どうぶつのターミナルケア その2 ターミナルケアで行われる医療行為
http://www.anicom-page.com/all_education_details?type=14&id=200

ターミナル期のどうぶつが自分から食べなくなり、痛みを取ったり食事を工夫したりあらゆる 手を尽くしても食べられないとき、あるいは本人が食べたくないという意思表示をしているときに、「強制給餌」や「経管栄養」でとりあえず栄養的にサポートを行ってあげた方がよいのか、それとも食べないという意思を尊重してあげた方がよいのか、さまざまな選択の一つ一つが本当に辛く、悩んでしまいますね。
「強制給餌」や「経管栄養」は、どうぶつ本人の意思とは関係なく食事を強制的に摂らせることになるため、「延命ではないか」「苦しむ時間をよけいに長引かせるだけではないか」と悩む飼い主さんが多くいらっしゃいます。確かに、栄養的にきちんとサポートしてあげることは延命につながる可能性はあると思います。例えば、どうぶつがすでに耐えがたい痛みや辛さに苦しんでいるような状況や、治療には反応しないような嘔吐や下痢などで食事を受け付けられないような場合など、無理な栄養補給は控えた方が良い場合もあるでしょう。ただ、適切な時期に「強制給餌」や「経管栄養」などで栄養的にきちんとサポートしてあげることは、どうぶつの「辛い」、「苦しい」、「しんどい」という状況をできる限り緩和し、場合によってはそのような状況に陥る時間を短くしてあげられる可能性もあります。特にがんのどうぶつではがんの進行に伴って、がん細胞から分泌されるサイトカインの影響で、代謝系、免疫系、内分泌系、脳神経系など様々なところに異常が生じ、食欲不振や削痩(さくそう)、衰弱、貧血などの症状が見られる状態(=がん性悪液質)になりやすいのですが、栄養をきちんと摂ることはこの悪液質の進行を遅らせることにつながり、どうぶつが「辛い」、「苦しい」という状況に陥る時間を短くしてあげられる可能性もあります。どうぶつが食べなくなったとき、どうしたら良いか判断に迷うようであれば、栄養的なサポートを行うことでどうぶつの状態を少しでも楽にしてあげられる時期にあるのかどうかを、主治医の先生に相談していただくと良いと思います。
また、どうぶつが食べなくなったときには、どうぶつの「食べない」という意思を尊重したい、自然にまかせて逝かせてあげたい、とお考えになる飼い主さんも多くいらっしゃいます。それもまた、愛するわが子のためを深く想っての選択です。
どうぶつは自分ではしゃべりませんが、長年一緒に暮らしてきた飼い主さんは、わが子がどうしたいと思っているか、自然に感じ取っていることが多いように思います。
どうぶつが「もっと生きよう」としているときには、飼い主さんもちゃんとそれを感じとっているでしょう。「食べないという意思を尊重したい」「自然にまかせて逝かせてあげたい」と感じるのは、おそらく、どうぶつも同じように思っていると感じられるからではないでしょうか。
愛するわが子のためにどうしてあげることが最善なのか、迷うことはたくさんあると思います。病気の進行具合やそれに対する体の反応は、それぞれのどうぶつにより異なり、すべてのどうぶつが同じ道筋をたどっていく訳ではありませんから、どの段階でどのような選択をすることが最善かということに正解がある訳ではありません。

 

※コメント欄は、同じ病気で闘病中など、飼い主様同士のコミュニケーションにご活用ください!記事へのご意見・ご感想もお待ちしております。
※個別のご相談をいただいても、ご回答にはお時間を頂戴する場合がございます。どうぶつに異常がみられる際は、時間が経つにつれて状態が悪化してしまうこともございますので、お早目にかかりつけの動物病院にご相談ください。

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みなさんからのコメント

Comment
coco
2025-03-19 23:29:39
愛猫が慢性腎臓病で投薬と輸液を頑張っていましたが、昨年11月に呼吸が早い事に気付き検査して喘息の診断を受けました。それからステロイド投与や吸入薬も併用しても一向に改善せず、今年の2月末にさらに呼吸状態が悪化し、自宅にて酸素室生活になりました。
その後、呼吸困難状態が何度かあるものの乗り越えて今も頑張っています。腎臓を温存させるべく何年も頑張っていたのに肺の方の進行が早く、看ていて辛いです。
たーちゃん
2025-02-28 17:20:57
うちの愛猫13歳も肺に腫瘍があり去年の11月から咳が出始めました。食欲不振になり色々工夫して4ヶ月過ごしてきましたが、昨日の朝晩に食欲増進剤を飲ませましたがそれでも全然食べれなくなってます。今日はちゅーるを一本食べただけです。ただ、病院がとにかく嫌いでなので連れて行っても咳が酷くなるしストレスになるので自宅でのんびり過ごしていますが、こんなに食べれていないのでどうしたらいいかずっと悩んでいます。
アニコム獣医師
2025-03-04 12:46:57
>たーちゃん様
ねこちゃんの食欲は、食事内容以外にもフードの形状、環境等にも影響されます。腫瘍の影響で食欲が低下した場合、ウェットフードを強制的にシリンジで与えることもありますし、匂いが出るようフードを温める、回数を分けて与えることもあります。また肺腫瘍の場合、呼吸状態の悪化が食欲に影響しますので酸素室を検討することもあります。食欲増進剤でも変化がないことも含め、先生に再度ご相談をお勧めします。
うめみそ
2025-01-20 07:37:26
15歳オスで、夏頃から嘔吐が気になり回数が徐々に増えました。12月からガタっと食べなくなり見る見る痩せていってます。カリカリを砕き風味付けしたり、今はピュレやパウチスープタイプを少量。食べません。お医者さんに行こうかとも悩みます。人も猫も同じですね。コメントを見てストレスや恐怖よりも自然に任せていくことにしました。とても参考になりました。ありがとうございます。
いけ
2024-08-19 10:40:03
まちこさまはじめ、この場で同じ悩みを共有できること、お知恵を借りて方針を検討できることありがたいです。

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