昔から日本中に生息し市街地にいるにも関わらず、カラスやハトやスズメほど知られていないムクドリ。今や大群で都市部に現れて騒音や糞害といった鳥害を起こす鳥として、あまりいいイメージを持たれていません。これからの関わり方を考えるために、ムクドリはどんな鳥なのか、その生態を知っておきましょう。
ムクドリってどんな鳥?

ムクドリはスズメ目ムクドリ科の鳥。全長24cmほどで、ハトとスズメの間くらいの大きさです。クチバシと脚はオレンジ色で、頭は黒褐色、体は茶褐色。顔とお腹まわりに白が混ざります。卵の色は鮮やかなエメラルドグリーンです。
名前の由来はムクの木の実を食べることから、また群れになる姿が印象的なことから群木鳥(ムレキドリ)が変化したなどの説があります。実際はムクのほかにクワ、グミなどの木の実を好みます。甘い実が好きなので、果樹園のサクランボやブドウなどを食べてしまうことも。また地面を歩いてミミズのような虫を食べます。
日本では北海道から九州にかけて生息し、一年中見られます。北海道や東北のものは冬になると南へ移動することもあります。山や森林よりも開けた場所を好み、市街地や農地、公園、河川敷、ゴルフ場などで見られます。
大規模な群れで行動する習性があり、巨大な群れでは数千羽という集団になります。夏以降にその年に生まれた子どもを連れて1本の大きな木に集まり、集団でねぐらを作ります。日中はそれぞれ食べる物を探し、夕方になるとねぐらに集まって夜まで鳴きかわして情報交換。冬を越せないヒナもいるので冬になると少し数が減り、春になるとペアで巣を作るため群れは解散します。冬になれば毎年決まっているねぐらで生活することが多いのですが、8~9月ごろはまだ各地をさまよいながら群れているため、商店街や街路樹にゲリラ的に大群が押し寄せて、一時的に地域住民を戸惑わせることがあります。
鳴き声は「リャーリャー」「キュルキュル」と聞こえ、警戒すると「ジャージャー」と鳴きます。大勢で鳴くことが多いため、騒音が問題になることが多く、害鳥として扱われることも多い鳥です。

ムクドリとヒヨドリの違い
ムクドリと体の大きさや全身の色が似ている鳥として、ヒヨドリがいます。どちらも身近な鳥で混同されることが多いので、見分け方を紹介します。
一番わかりやすいのはクチバシと脚の色。ムクドリはオレンジ色ですが、ヒヨドリは黒です。またムクドリのほっぺは白ですが、ヒヨドリは赤茶色です。体の大きさも似ていますが、ヒヨドリの方が尾羽が長く、比べるとやや大きく見えます。
鳴き声も異なり、ムクドリがリャーリャー、キュルキュルなどと大きく鳴くのに対して、ヒヨドリはヒーヨヒーヨ、ピヨピヨなどとやさしく鳴きます。行動の仕方もちがっていて、ムクドリは大きな群れを作りますが、ヒヨドリは単独行動が基本です。ただ秋になると、暖かい場所へ移動するためにヒヨドリも大きな群れになることがあります。
ムクドリが都市部に現れるのはなぜ?
ムクドリは、もともと農村にある大木のうろに巣を作って繁殖し、やがて周辺の大きな木に集まっていました。開発によって本来巣作りをしていた環境が減ったことで都市部にも現れるようになり、鉄骨や鉄塔、鉄橋のすき間などに巣を作るように。そして街路樹をねぐらにするようになりました。ムクドリが市街地でも見られるようになったのは1950年代のこと。それから増えていき、1980年代から騒音や糞の被害が深刻になりました。現在も各地で駅前や住宅街の街路樹がねぐらにされるなどして毎年問題となっています。
都市部でよく見られるようになったためムクドリは増えていると思われがちですが、そのほかの場所では少なくなっていて、日本全体で見ると数は減っているといいます。都市部に増えたのは、それまで巣やねぐらとしていた環境が減ったことに加えて、市街地で天敵となっていたカラスが減ったことがあげられます。ムクドリがねぐらとして好むケヤキの木が街路樹として多用されていることも市街地が好まれる原因となっているようです。
ムクドリは益鳥でもある?
市街地で問題となっているムクドリですが、昔は益鳥とされていました。ミミズや昆虫、その幼虫など畑の害虫をたくさん食べてくれるためです。今でもたくさんの虫を食べていることは変わりませんが、果樹園の収穫物を食べてしまうことから、害鳥のイメージが強くなっています。
ムクドリは賢い?
天敵のタカやフクロウを避けて市街地に住み、その中でも人通りが多い駅前を安全だと判断してねぐらにするムクドリは、賢く知能が高い鳥です。ヨーロッパに生息する近縁種のホシムクドリは、音楽家のモーツァルトにペットとして飼われていました。そして飼い主が作曲した曲を覚えてさえずっていたそうです。日本にいるムクドリも記憶力が良く、驚かせて追い払おうとしても、安全だとわかってしまうと効果がないこともあります。
ムクドリの鳥害対策と駆除
ムクドリは野鳥のため、許可なく捕獲することはできません。かといって、放っておくと毎年戻ってくる可能性も。迷惑な場所をねぐらにされてしまった場合、唯一できるのは追い払うことです。次のような対策があります。
・天敵のカラスやフクロウを模した忌避グッズをおく
・録音されたカラスやフクロウの鳴き声を流す
・大きな音を出して追い払う
・光で追い払う(CDを吊り下げる、電飾やセンサーライトで夜間も明るくするなど)
・木で休めなくする(剪定する、防鳥ネットをかけるなど)

大群にねぐらにされてしまう前に寄せ付けない環境づくりを行うことも大切です。家の軒下などに巣を作られたことがあったら、防鳥ネットを張って入れないようにするなど、巣を作られないような対策を考えましょう。
まとめ
ムクドリが群れになるのは、天敵から身を守るため。集団でいることで危険をいち早く察知することや、数で威嚇をすることができます。このような理由から群れになる鳥は少なくありません。ムクドリの場合は都市部に現れ、特に大きな群れを作るのでどうしても迷惑な鳥になってしまいます。どうにかして離れてもらうしかありませんが、そもそもムクドリを本来の住みかから追い払ったのは、人間の方ともいえます。そして、ムクドリも生態系のバランスを保つ一員。決していなくなった方がいい鳥ではありません。難しい問題ではありますが、ムクドリをはじめ都市へ進出してきた野鳥との共存について考えていくことがこれからの課題です。