動物病院で行われる検査は、言葉で症状を伝えることのできないどうぶつの体調を把握する上で、たいへん重要な役割を果たします。検査にもいろいろな種類がありますが、それぞれの検査で分かることを知っておくことは、わが子の健康状態を知る上でたいへん役に立ちます。
一般的な血液検査について
体中をめぐり栄養や酸素を運搬するなど、重要な機能を担う血液は疾病特有の変動が生じやすく、体内で何が起こっているのかを把握する重要な判断材料となります。
1.完全血球計算(全血球検査:CBC)
どうぶつの体調に変化がみられたとき、体の中でどの様なことが起きているのかを把握するため、最もよく行われる検査が完全血球計算(全血球検査:CBC)です。
機械あるいは血球計算盤を用いて、血球(赤血球・白血球・血小板)の数量や割合について調べます。
(1)赤血球数(RBC)
赤血球の働きは、体の組織や細胞に酸素を運び、不必要になった炭酸ガスを回収することです。
下痢・嘔吐・多尿などにより脱水症状を起こしているときは赤血球数の増加がみられ、貧血のときには減少します。
(2)白血球数(WBC)
「細菌や異物などから体を守る」という重要な働きを担う白血球には、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球があり、それらの合計が白血球数です。体内に炎症、感染、ストレス、異物などがあると白血球数の増加がみられます。
一方、ビタミンの欠乏やパルボウィルス腸炎、汎白血球減少症のようなウイルス感染症などにより減少します。白血球数に変化が見られる場合には、血液塗抹検査を行い、どの種類の白血球が増減しているのか、あるいは異常な白血球の有無について調べます。
(3)ヘマクリット値(Ht)・赤血球容積比(PCV)
血液全体に占める赤血球成分の容積の割合です。血液を遠心分離し、沈殿した赤血球の血液全体に占める値を測定します。この値が下がると貧血、上がると脱水などによる血液濃縮や赤血球増加症(多血症)が考えられます。
(4)ヘモグロビン値(血色素=Hb)
赤血球が酸素を運ぶ上で、重要な役割を果たすのがヘモグロビン(血色素)です。この値が高いと脱水、低いと貧血などが考えられます。
(5)血小板数(PLT)
血小板(PLT)は止血作用に関わります。血小板の数が減る血小板減少症は、自己免疫疾患や薬物中毒、ビタミン欠乏など、様々な疾患に伴って起こります。
2.血液塗抹検査
貧血や白血球の増減、血小板数に異常がみられるときは、原因の特定あるいは推測のために血液塗抹検査を行います。血液をスライドガラス上に薄く均一に広げ、染色をして、血液の細胞成分を顕微鏡で直接観察します。赤血球の形態、白血球を構成する好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、単球が、それぞれどのくらいの割合で含まれるか(白血球百分比)、異常な白血球の有無、血小板の数や形態などを調べます。
3.血液生化学検査
血漿(けっしょう)中の成分や酵素の量などを測定することで、肝臓や腎臓、膵臓などの働きを調べる検査を血液生化学検査と呼びます。
※血漿とは、血液を遠心分離にかけたときに、赤血球、白血球、血小板といった血球部分と分離して得られる黄色味を帯びた液体成分をいいます。
(1)トータルプロテイン:総タンパク(TP)
血清あるいは血漿(けっしょう)中のタンパク量を調べることで、栄養状態、肝機能、腎機能、免疫の状態などを把握することができます。
血漿中にはアルブミンや免疫グロブリンなどのタンパク質が溶解して全身を循環していますが、下痢や嘔吐などの脱水状態にある場合は、この値が高くなります(高タンパク血症)。
また、食事の摂取量不足であったり、慢性の肝臓疾患や腎疾患、あるいは出血があったりすると、この値が低下します(低タンパク血症)。
(2)アルブミン(ALB)
アルブミンは血清中に含まれるタンパク質の一つです。肝臓で食事中のアミノ酸から合成され、脱水状態のときは値が高くなります。
慢性の肝疾患、食事の摂取量不足、消化・吸収不良ではアルブミンの産生が低下するため値が低くなります。
また、出血、蛋白喪失性腸症、腎疾患などでもアルブミンの喪失が起こるため値が低くなります。
(3)グルコース:血糖値(Glu)
血液中に含まれるグルコース(血糖)の値を調べます。体を動かすエネルギーの元となるグルコース(血糖)は、膵臓から出るインスリンなどのホルモンや自律神経の働きにより、ほぼ一定に保たれるように調節されています。ところが糖尿病、甲状腺や副腎皮質機能の亢進症などにより糖代謝に異常が生じると、この値が上昇します(高血糖)。
他方、インスリンの過剰投与、膵臓に疾患がある、甲状腺機能の低下、過度の栄養摂取量不足などにより血糖値が低下します(低血糖)。
(4)血中尿素窒素.(BUN)
タンパク質の分解に伴い作られるアンモニアは、体にとって有害ですが、肝臓で毒素の少ない尿素に変えられ、腎臓の糸球体でろ過されて腎臓から尿中へ排泄されます。
腎臓の機能が低下すると血中尿素窒の値が高くなり(高窒素血症)、タンパク質摂取量の不足や肝機能障害による産生低下によって下がります(低窒素血症)。
(5)クレアチニン(Cre)
体内でタンパク質が使われた後の老廃物がクレアチニンです。クレアチニンは血液を介して腎臓の糸球体でろ過された後、尿中に排泄されます。腎機能の障害や尿路結石などにより値が高くなります。
(6)アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT/GPT)
体内で化学反応を起こす際の触媒としての役割をするのが酵素ですが、窒素の代謝やアミノ酸の合成に関わる酵素を総称してアミノトランスフェラーゼ(トランスアミナーゼ)と呼びます。
アラニンアミノトランスフェラーゼ(トランスアミナーゼ)は肝臓での活性が高く、肝臓に特異な酵素ですので、肝臓の働きを測る指標となります。肝細胞の壊死や障害が起きると値が上昇します。
(7)アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST/GOT)
アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼは肝臓、筋肉、赤血球などに多く存在する酵素です。
肝疾患、筋肉疾患(炎症や壊死)、溶血などで値が上昇します。
(8)アルカリフォスファターゼ(ALP)
アルカリフォスファターゼは肝細胞や胆管上皮細胞、骨芽細胞などで産生される酵素です。
これらの細胞でアルカリフォスファターゼの産生が増加したときに、血液中のアルカリフォスファターゼ値の上昇が認められます。
ステロイド薬の投与、胆汁の流出経路の異常、肝疾患、腎疾患、骨の病気などにより上昇しますが、健康な子犬の成長期にも骨の成長に伴って上昇がみられます。また、ある種の腫瘍でも上昇がみられることがあります。
(9)総コレステロール(T-Cho)
細胞膜の成分、あるいはホルモンの材料として重要なコレステロールは、ほとんどの場合、そのままの形、あるいは胆汁酸に変えられ肝臓、腸を経て排泄されます。
肝臓や胆道の疾患、糖尿病などの内分泌疾患、腎臓疾患、脂質代謝異常があると、総コレステロール値が高くなります。
一方、栄養失調や肝硬変、肝臓腫瘍、甲状腺機能亢進症、副腎皮質機能低下症(アジソン病)などでは値が低くなります。
(10)トリグリセリド:中性脂肪(TG)
トリグリセリド(中性脂肪)は、体内にある脂肪の一種です。食事として摂取されたトリグリセリド(中性脂肪)は、膵液や胆汁酸により分解されて小腸から吸収された後、血液中に入ります。
エネルギーとして使われなかったものに関しては皮下脂肪として蓄えられます。肥満や糖尿病、膵炎、副腎皮質機能亢進症(クッシング症候群)などではこの値が上昇します。
一方、栄養疾患、肝硬変、甲状腺機能亢進症、副腎皮質機能低下症(アジソン病)などでは値が低下します。
(11)総ビリルビン(TBil)
胆汁色素であるビリルビンは、赤血球中の血色素(ヘモグロビン)が分解されたときに生じ、肝臓で処理された後、胆汁とともに胆嚢に貯蔵、腸管内に排出されます。
その後、腸内細菌によって分解され、便や尿とともに体外に排出されます。
寄生虫や伝染性の病気、自己免疫疾患などにより一度にたくさんの赤血球が壊れたとき(溶血)や、肝臓の機能低下やビリルビンの排泄経路の障害、胆管の閉塞などにより血中のビリルビン濃度は上昇します。
(12)カルシウム(Ca)
カルシウムは骨や歯などの構成成分であるとともに、神経刺激の伝達、筋肉の収縮、血液の凝固などに関与する重要なミネラルの一つです。
体内のカルシウム濃度は、上皮小体ホルモン(PTH)、甲状腺の傍濾胞細胞(ぼうろほうさいぼう=C細胞)から分泌されるカルシトニンなどのホルモンの影響をうけ、調節されています。上皮小体機能亢進症、甲状腺機能低下症などの内分泌疾患や腎不全、ビタミンD過剰症、一部の腫瘍性疾患などのときには値に上昇がみられ、食事からの摂取不足、吸収不良、腎不全、上皮小体機能低下症などの内分泌疾患などにより低下がみられます。
(13)リン(P)
リンは骨や歯、核酸などの構成成分で、カルシウムと同様に、上皮小体ホルモン(PTH)、カルシトニンなどのホルモンの影響をうけて血中濃度が変化します。
腎機能が低下すると血液中のリンの排泄が上手くいかなくなって高リン血症となり、次に過剰なリンがカルシウムと結合して腎臓や骨などの石灰化を起こし、さらなる腎機能の低下を引き起こします。したがって腎障害のときにリンをモニターすることは重要です。
腎不全の他にも、食事からのリンの過剰摂取、上皮小体機能低下症、甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患、骨腫瘍などのときに上昇がみられ、食事からの摂取減少、高カルシウム血症、上皮小体機能亢進症、糖尿病の際のインスリン投与などによって低下がみられます。
(14)電解質
ナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)などの電解質は、体内の水分量を調節したり、酸と塩基(アルカリ)のバランスをとって水素イオン指数(pH)を一定に保ったり、神経伝達や筋肉の収縮など、生命活動を維持するために重要な役割を果たしています。これらの電解質は、通常はバランスよく一定の濃度を保っていますが、体内の水分を調節している腎臓や様々なホルモンの働きに異常が起こったり、嘔吐や下痢などで体外に失われることで、バランスに変化が起こる場合があります。
ナトリウムは体の水分量を調節しています。脱水やナトリウムの摂取過剰によって高値になり、飲水過剰、腎不全、心不全、副腎皮質機能低下症(アジソン病)、嘔吐や下痢などにより低値になります。
カリウムは、ナトリウムとバランスをとりながら神経や筋肉、心臓の働きや血圧の調節に関わっています。乏尿性(ぼうにょうせい)腎不全、尿路閉塞、副腎皮質機能低下症(アジソン病)、高血糖などにより高値になり、嘔吐、慢性腎不全、副腎皮質機能亢進症などにより低値になります。
クロールはナトリウムとともに体内の水分量や水素イオン指数(pH)の調節をしています。脱水や腎不全で高値になり、嘔吐や副腎皮質機能低下症(アジソン病)などで低値になります。
➤次ページ 検査について知ろう(2)<特殊な血液検査>
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体重は5.8kg
脂質代謝異常と言われ、薬を服用していますが、
別の病院では、治療は必要なし、とも言われました。
どちらが正しい判断でしょうか。
血中の総コレステロールや中性脂肪が高値の場合は脂質異常症(高脂血症)が疑われます。脂質異常症には原発性と続発性があり、健康な子でも食事の影響により脂質が上昇するため、より正確に評価するために絶食のうえ、空腹時の数値を調べることが多いです。ネコちゃんの食事の種類や症状の有無、検査条件などによっても評価が異なるため、今後の方針についてはかかりつけとご相談いただくことをお勧めします。
猫ちゃんの総コレステロールの正常値は検査機械によって多少異なりますが、90〜 200mg/dlとされています。そのため、93mg/dlでしたら、再検査の必要性は低いかと思われます。ただし、他の検査結果やねこちゃんの状態によっても再検査の必要性は変わりますので、検査結果について不安やご不明点があればかかりつけの先生にもご相談なさってください。
白血球、CRP、LIPが高値となっていることから、膵炎等、膵臓周囲に関係する疾患の可能性が考えられますが、血液検査のみで病気の診断をすることは出来ず、全身症状や血液検査以外のレントゲンやエコー検査等の結果を踏まえて総合的に診断をする必要があります。
こちらでは診断行為はできかねますため、どのような原因が考えられるのか、担当の先生にご確認頂くことをおすすめします。