どこの街でも見られる鳥、ハト。世界中であまりに身近すぎて、あらためてハトがどんな鳥なのか、知る機会すらないのが現状かもしれません。ここでは知っておくとハトを見るのが楽しくなるハトのすごい雑学を紹介します。

ハトってどんな鳥?

ハトは、ハト目ハト科の鳥。カラスやスズメと同じく身近な野鳥ですが、実はもともと日本に生息していた鳥ではありません。「ドバト」と呼ばれる全国の街中でよく見かけるハトは、野生のカワラバトを改良したもの。人に飼われていたものが日本に導入され、野生化して生息地が全国へ広がった外来種です。

カワラバトは地中海沿岸や中央アジアに生息し、崖に巣を作って繁殖する鳥。これが飼い慣らされ、改良されて伝書鳩や鑑賞バト、食用とそれぞれに適したさまざまな品種が生まれました。今では各地で野生化し、北極と南極、一部の高山を除く世界中に広がっています。日本に入ってきたのは大和・飛鳥時代のころという説があり、奈良時代の記録からは白いハトに関する記述が見つかっています。崖に巣を作る習性から、高い建物であるお堂に巣を作ることが多かったようで、「塔バト」「堂バト」などと呼ばれるようになり、やがて江戸時代のころにはドバトとなったといわれています。 

ドバトは数10羽の群れで生活し、崖のような垂直で高い場所であるビルやマンション、橋脚などの構造物に巣を作ります。植物食でおもに草の種子を食べます。

知っておきたいハトの雑学

どこでも見られるハトですが、実は驚くべき習性や特徴がたくさんある鳥です! ハトのすごいところがわかる雑学を紹介します。

古今東西で愛と平和の象徴に

ハトは最も早く人に飼われるようになった鳥で、紀元前3000年ごろから飼育されていたと考えられています。古代エジプトの壁画やレリーフにもハトが描かれていることから、人々にとって大切な存在であったと推測されます。現在でも世界中のさまざまな宗教や文化にハトが登場します。キリスト教では、ノアの方舟のオリーブの枝をくわえて戻ってくるエピソードから、平和の象徴に。ギリシャ神話でもハトは愛と平和の象徴です。またインドの仏教説話では、ハトは釈迦の前世として描かれています。

実はかしこい鳥

海外の研究で、ハトは鏡に映った自分を認識できることがわかっています。たいていの鳥は鏡の意味がわからず、そこに別の鳥がいると信じています。そんな中、ハトは訓練をすると自分が鏡に映っていることを理解できるようになるのだそう。また、写真を見ただけで人間を区別することもできるのだとか。さらに、アルファベット26文字を覚えて単語を区別することもできてしまいます。

数100㎞離れた場所から巣に戻れる

ハトは帰巣本能が優れていることも知られています。なんと数100km離れた場所で放されても、自分が暮らしていた場所に戻ってくることができます。中には1000㎞離れた場所から戻ってくるハトも。磁場を利用して方向を知ると考えられていますが、なぜ離れた場所から正確に戻ってこられるのか、詳しい理由は明らかになっていません。

数々の通信で活躍していた

現代のように通信技術が発展するまで、伝書バトは世界中で信頼できる通信手段でした。歴史上の大きな出来事も、ハトが第一報を入れたものがいくつもあります。登山中の遭難者のレスキューの際、ハトが情報伝達をして負傷者の生還につながったケースもあります。国内でも、1960年代まで各新聞社が屋上でハトを飼育して伝書バトで情報をやり取りしていました。

同じパートナーと添い遂げる

「おしどり夫婦」で知られるオシドリは、毎年つがいの相手が変わります。一夫一妻の鳥でも、翌年には相手が変わることは珍しくありません。しかしハトは基本的に生涯同じ相手と過ごします。それも繁殖期だけでなく、一年中一緒に行動します。帰巣本能が強いのも、つがいの相手のところへ戻りたい気持ちが強いからともいわれています。死別してしまった場合でも、次の相手を受け入れるまでに時間がかかるそうです。

鳥なのにミルクを出す

ハトは鳥の中では大変珍しく、ミルクで子育てをします。ピジョンミルクと呼ばれる栄養を多く含む液体が親の体内で作られるのです。ミルクといっても乳腺はなく、喉にある「そのう」という部分で作られ、吐き出してヒナに与えます。ヒナは生まれてから数日はピジョンミルクのみで育ち、その後は虫も食べますが、完全に巣立つまでピジョンミルクを飲み続けます。ピジョンミルクは母親だけでなく、父親も出すことができます。子育ては夫婦で交代でミルクや虫を与え、協力して行います。

独特の歩き方は警戒と観察のため

ハトといえば、首を振りながら歩く姿が印象的ですね。実はハトは首を振っているのではなく、頭を固定して視界を安定させようとしていて、それが結果的に首を振っているように見えているのです。ハトの目は横についているため、歩いて景色が流れていくと周りが見えにくくなります。そこで、少しでも頭の位置を固定して周囲にピントがあうようにしているのです。こうして歩きながら周りを見ることで、天敵を警戒したり、周囲を観察したりしています。

水を吸い上げて飲むことができる

ハトは水の飲み方が独特です。鳥の多くはクチバシに水を含み、顔を上げてから飲み込みます。ところが、ハトは顔を下に向けたまま水を吸い上げて飲みます。舌を動かして口の中を陰圧にすることで、水を吸えるようになっているのです。

日本在来のハトもいる

公園や街中で見かけるドバトは外来種と説明しました。国内にはこのほかに、キジバトやアオバト、カラスバトなど在来のハトの仲間もいます。これらの種類はドバトとは住みかが異なり、山や森など人里離れた自然が多い場所にいるため、なかなか見かけることはないでしょう。

ただキジバトは、近年都市部でも見られるようになっています。ドバトのように首元に虹色のグラデーションはなく、しま模様があること、体にキジのようなウロコ模様があることが特徴です。

▲キジバト

ハトが問題になることも

ハトは人の近くにいるため、フン害や人家に巣を作ること、農作物の食害、航空機や電車との衝突、感染症を媒介するといったことから、鳥害対策が問題となっています。また食事や巣を作る場所を取り合うことで在来の鳥に影響が及ぶことも心配されています。

ハト対策でできることは?

わたしたちにできることは、餌付けをしないことです。公園やベランダなどで寄ってくると、エサとしてパンやお菓子をあげたくなるかもしれませんが、そもそも人間の食べ物はハトの健康によいものではありません。ハトが集まることで近隣に住む人へ迷惑をかけることにもつながります。野生のハトの数を増やさないためにも、食べるものを与えることはやめましょう。

足環があるハトを見つけたら

飼い主がいるレースバトは足環をつけています。足環をつけたハトが迷い込んでも、ハトが自力で飛べるなら、帰巣本能があるので自分で帰ることができます。外に放して見守りましょう。傷ついているときや飛べない状態で保護したときは、飼い主へ連絡を。足環を見ると、飼い主の連絡先が書かれていることがあります。直接の連絡先がわからない場合は、協会へ連絡すると飼い主の情報を照会できます。連絡する協会は足環の最初のアルファベットによって異なります。「NIPPON」と記載がある場合は日本伝書鳩協会へ、「JPN」と書かれている場合は日本鳩レース協会へ連絡をしてください。

まとめ

ハトの雑学、いくつ知っていましたか? 公園や広場によくいるハトの祖先は人に飼われていましたが、現在は野鳥として暮らしています。現代の形で共存ができるように、野生のハトに餌付けをすることはやめましょう。決して近づきすぎず、距離を保った接し方で見守ってください。

ライター

佐藤華奈子

佐藤華奈子

大学の動物系学科を卒業後、教育情報誌、ライフスタイル誌の編集プロダクション勤務を経て、2009年よりフリーランスの動物ライターに。「動物を飼うことは動物と暮らすこと」をテーマに活動中。おもにペット、動物園、牧場の動物関連の雑誌、書籍などで執筆。2011年よりうさぎ(ネザーランドドワーフ)と暮らしている。