病気と上手く付き合おう(13)がん(悪性腫瘍)と闘うどうぶつを支える(4)<呼吸が辛そうになってきたら>

 

近年、ご家族と暮らすどうぶつたちの高齢化やライフスタイルの変化、診断技術の向上などの獣医療の進歩に伴い、がんであると診断されるどうぶつが増えてきています。
がんの治療は、外科手術や抗がん剤治療、放射線治療など、がんそのものをやっつけるための治療に目が向きがちですが、実はそれらの治療を成功に導くためには、「がんに負けない体作り」を同時に行うことがたいへん重要です。具体的には「適切な栄養を摂取して体力を維持すること」や「がんと闘う免疫力を維持すること」などですが、そのためには、日常生活の中で行う家での看護が重要な役割を果たします。がんと闘うどうぶつたちが、少しでも辛さから解放され、明るくて楽しい毎日を送るために、どのようにしてあげたら良いのでしょうか。

がんが進行すると、さまざまな原因から呼吸が辛そうな症状がみられるようになることがあります。呼吸の辛さは、がんのどうぶつのQOL(生活の質)を低下させるとともに、看護する飼い主さんにも 大きな心の負担となります。原因によっては正常な呼吸状態にまで回復させることは難しいこともありますが、そのようなとき、どのようにサポートをすれば、少しでも楽に過ごせるようにしてあげられるのでしょうか。
今月は、辛そうに呼吸をする我が子へのサポートについてご案内します。

 

 

呼吸が苦しいときのサイン

 

 

どうぶつは呼吸が苦しいと感じてもそれを言葉で伝えることができません。ワンちゃんやネコちゃんに どのような様子が見られたとき、呼吸の辛さを感じている可能性があるのでしょうか。
サインを早めに見つけて対処してあげられるようにしましょう。

◇じっとして動かない ◇呼吸数が多い ◇体全体で一生懸命に呼吸している(努力性呼吸)
◇口を開けて呼吸する(開口呼吸) ◇長時間咳が続く
◇呼吸の際ゼーゼーという音がする(喘鳴) ◇横になって休むことができない
◇首を伸ばして前肢を突っ張る姿勢(ワンちゃん)
◇前肢を開いて胸腔を広げようとしたり、背中を丸める姿勢(ネコちゃん)
◇よだれを垂らす ◇チアノーゼがみられる(歯茎や舌が青紫色になる)

 

 

呼吸困難の原因

 

 

がんのどうぶつに呼吸が辛そうな症状がみられるとき、主に次のような原因が考えられます。

1. 肺にできたがん(原発性肺がんや他のがんの肺転移)あるいは気管や気管支等にできたがんによる影響
2.胸水や腹水がたまっている
3.気管支炎や肺炎を併発している
4.重度の貧血を起こしている
5.喘息(ぜんそく)、心疾患などの持病の悪化による影響

がんが進行して呼吸に辛そうな症状が見られるようになった場合、治療による完全な回復は難しい  場合もありますが、原因によっては治療によって改善してあげることができる場合もあります。
そのため、どのような原因で呼吸困難が起こっているのかを特定することが重要です。
呼吸困難の原因を特定するためには、胸部レントゲン検査や血液検査、エコー検査など各種の検査を行います。ただし状態が良くない場合、検査のために横向きや仰向けの姿勢をとることや、検査に抵抗して暴れたりすることで呼吸困難の症状が悪化してしまうこともあるため、慎重に行う必要があります。

 

 

呼吸困難が見られた時のチェックポイント

 

 

どうぶつの呼吸状態に異常があり、動物病院を受診するとき、次のようなことが分かると原因を特定する手助けになります。よく観察して主治医の先生に伝えるようにしましょう。
1.いつから症状が見られたか
2.どのような時に呼吸困難が見られたか
興奮時や運動後のみ見られる/安静にしていても常に見られる など
3.咳やくしゃみ、鼻水等が見られるか
4.咳をしている場合、乾いた咳か、湿った咳(痰がからんだような咳)か
5.呼吸をするときゼーゼーという音が聞こえるか
6.息を吸うときと吐くときとどちらが苦しそうか
7.チアノーゼ(※)がみられるかどうか
※血中の酸素濃度が低下することにより、皮膚、舌、爪の色が暗赤色や紫色になる状態がチアノ−ゼです。

また、診察の時に呼吸の様子を先生に診ていただかないと診断が難しいこともあります。お家で呼吸の症状があったときの動画を携帯電話等で撮影しておき、診察時に主治医の先生に見ていただくと 診断の助けになるかもしれません。

 

 

呼吸困難の治療

 

 

どうぶつの呼吸困難の治療には、大きく分けて「呼吸困難の原因に対する治療」と「呼吸困難の症状を緩和させるための治療」があります。
1. 呼吸困難の原因に対する治療
呼吸困難の原因を取り除くための治療です。例えば、胸水や腹水の貯留が原因の呼吸困難の場合は、利尿剤を投与したり、穿刺(せんし)※して貯留液を抜き取る処置を行います。
また、気管支炎や肺炎が原因の場合は、抗生物質や抗炎症剤の投与などを行います。
このほかにも、重度の貧血が原因の場合には、貧血の原因を特定して治療を行ったり、輸血を検討します。
気管支炎、喘(ぜん)息、心疾患などの持病があり、その悪化による影響が原因と考えられる場合にはそれぞれの疾患の治療を行います。
※穿刺とは、病気の診断や治療のため、腹腔や胸腔などに針や専用の器具を刺すことをいいます。

2. 呼吸困難の症状を緩和させるための治療
原因に対する治療と並行して、あるいは呼吸困難の症状が起こる原因を取り除くのが難しい場合には、少しでも呼吸を楽にさせ息苦しさを和らげてあげるための治療を行います。
(1)酸素療法
空気よりも高濃度の酸素を吸わせることで、低酸素状態になっている組織に酸素を供給し、息苦しいという自覚症状を和らげる治療です。人で酸素療法を行う際は鼻カニューラ(酸素供給器から酸素を送り込むために鼻腔につける細いチューブ)や酸素マスクなどを利用することがありますが、どうぶつの  場合は装着が難しいことが多いため、多くの場合、ケージ自体の酸素濃度を調整した酸素室を利用 します。
ICUケージを持つ動物病院では、入院中、そのようなケージで酸素療法と温湿度管理を行います。  自宅で看護している場合には、酸素濃縮器や酸素ボンベ、酸素ハウスのレンタルを行っている業者さんがありますので、自宅で酸素療法を行うこともできます。自宅で酸素療法を行う場合、酸素ケージの中の酸素濃度や温度、湿度が適切に保たれるかどうかがとても重要になります。主治医の先生ともご相談の上、信頼できる業者さんを利用し、ご自宅での設置にあたりご不明な点はきちんと確認するようにしましょう。
なお、季節によっては、酸素室内の温度や湿度の調節が難しいことがあります。特に夏の暑い時期に酸素室内が高温になると呼吸状態は更に悪化し、大変危険です。エアコンを用いて部屋全体を冷やすのが望ましいのですが、難しい場合には、ペットボトルに水を入れて凍らしたものを酸素室の中や周辺に置き、適温に近くなるよう工夫しましょう。酸素室の中にペットボトルを入れるときには、バスタオルなどでくるんであげると良いでしょう。

(2) 薬物療法
対症療法として、気管支拡張剤や鎮咳(ちんがい)剤、去痰(きょたん)剤、ステロイドを含む抗炎症剤などを使用して呼吸が楽になるような薬物療法を行います。息苦しいという自覚症状を緩和させるために鎮静剤を使用する場合もあります。
 

 

 

息苦しさを緩和するためにお家でできる工夫

 

 

がんの進行に伴って見られる呼吸困難は、残念ながら治療で完全に正常な状態にすることは難しいのが現状です。ただ、少しでも息苦しいという自覚症状を緩和して穏やかに過ごさせてあげるためにお家でできることもありますので、ご紹介します。

1. 生活環境の整備
どうぶつの普段の生活環境を適切に整えてあげましょう。温度や湿度は呼吸状態に影響を及ぼします。適切に保たれているかチェックするようにしましょう。ワンちゃんの場合は人が快適と感じる温度よりやや低めに保ってあげると呼吸を楽に感じることが多いようです。また、乾燥すると痰が出しづらくなったり気道感染を起こしやすくなりますので、適度な湿度を保つことも重要です。
埃やハウスダスト、たばこの煙なども呼吸困難を悪化させる原因になることがあります。衛生状態に 気を配り、こまめな清掃や換気を心がけましょう。どうぶつが居る部屋では禁煙していただいた方が 良いでしょう。
また、トイレや食事をする場所を寝床の近くにするなど、なるべく動き回る負担を少なく過ごせる配置を考えてあげると良いでしょう。興奮すると呼吸困難が悪化することがあります。外の様子が見えたり  玄関に人の出入りがあると、気になって興奮してしまう傾向がある場合には、なるべく静かに落ち着いて過ごせる場所に移動させるなど工夫してあげましょう。

2.楽な姿勢を探してあげよう
呼吸の状態、痛みの場所や強さなどの違いから、一番楽と感じる姿勢はどうぶつによってさまざまです。我が子が一番楽と感じられる姿勢を探してあげましょう。苦しくて横になれないこともありますが、段差のある場所を利用して居場所を作ってあげたり、長時間呼吸が楽な姿勢を維持できるようにクッションなどでサポートしてあげると良いでしょう。ただし、同じ姿勢をずっと取り続けることは褥創(じょくそう=床ずれ)を引き起こしたり、別の痛みの原因になってしまうこともあります。無理のない範囲で定期的に姿勢を変えてあげることが必要です。        

3.痰を出しやすくするには
痰が上手く出せないと、不快に感じたり呼吸困難を悪化させる原因になります。少しでもスムーズに排出できるようにしてあげたいですね。痰は水分が少なくなると粘り気が強くなり排出しづらくなります。  水分を十分摂取させることで痰を軟らかくし排出しやすくしてあげましょう。また吸い込む空気が乾燥 していても痰から水分が抜けて粘り気が強くなりますので、乾燥する時期には部屋を加湿し湿度を  上げることが効果的です。

4.息苦しさをなるべく感じないようにするために
息苦しさの自覚症状は体や心の状態によっても感じ方が変わってきます。発熱や痛み、不快感などがあると、息苦しさを強く感じる場合がありますので、体調をこまめにチェックして、治療で改善できるものについては早めに対処してあげるようにしましょう。睡眠不足も体力や気力を奪い、呼吸困難を悪化させる原因になりますので、睡眠が取れているかどうかも気をつけてあげましょう。息苦しさで眠れない様子が見られる場合、鎮静剤が効果を発揮することもありますので、主治医の先生に相談してみると良いでしょう。また、精神的な不安や恐怖、ストレスなどがあると息苦しさを強く感じてしまうことがあります。できるだけゆったりとした落ち着いた気持ちで過ごせるように心がけてあげましょう。
大好きな飼い主さんから話しかけてもらったりなでてもらったりすることは、気持ちを落ち着かせるためにはとても効果的です。息苦しそうな我が子を見ることは辛いことですが、飼い主さんの不安や苦痛をどうぶつは敏感に感じ取ります。まずは飼い主さん自身が落ち着いて、我が子が一番安心出来る笑顔で接してあげられると良いですね。

 

 

呼吸困難が強くなってきたら

 

 

がんが進行して末期になると、呼吸困難が強くなり低酸素血症(血液中の酸素濃度が低下した状態)から、意識障害や痙攣(けいれん)などが見られる場合があります。また、急激に呼吸状態が悪化し苦しむ様子が見られる場合もあります。かかりつけの動物病院の休診日や夜間などにそのような状態になってもあわてないように、あらかじめそのような場合の対応方法を主治医の先生と相談しておくと  良いでしょう。意識障害や痙攣などが見られると、どうぶつがひどく苦しんでいるのではないかと心配になりますが、意識を失っている間はどうぶつは苦しみや痛みを感じていないと言われますので、落ち着いて対処してあげてください。
あらゆる治療やサポートをしても息苦しさを改善してあげることができず、どうぶつがかなり強い苦痛を感じていてそれを取り除くことが不可能と判断される場合には、「安楽死」という選択も視野に入れて 考えてあげる必要があるかもしれません。「安楽死」にはいろいろな意見や考え方があると思います。とても辛いことですが、どんなどうぶつにも必ず最期のときはやってきます。愛する我が子の最期を  どのように迎えさせてあげたいか、あらかじめご家族や主治医の先生とよく話し合っておかれると良いと思います。
 

みなさんからのコメント

Comment
ななのママ
2020-08-15 01:30:10
猫のななは13歳、乳癌がリンパと肺に転移して、肺に水も溜まってます
日に日に、体重が落ち、呼吸困難もでてきてます
抗生物質とステロイドを使用してますが、あまりにも苦しそうで
穏やかな最後の選択、皆さんと同じで難しいですね
見てるのが辛くなります
デールママ
2020-07-19 22:23:42
うちの子は、メラノーマ末期の診断を受け対症療法で経過をみています。13歳の高齢なのでゆっくりと進行してくれる事を願うばかりです。早期に見つけてあげれなかった事を悔やむばかり…ごめんね
腫瘍が大きくなり覚悟をしておかないといけない時期に来ています。苦しまないように見送ってあげないとと思いつつ苦しい気持ちでいっぱいです
アニコム獣医師 馬場
2020-07-03 09:12:57
>ユッチ様
大きな腫瘍で見ているだけでも心が痛みますね。
治療は前足の切断ということで、とてもつらい選択になりますね。慣れるまで多少の不自由は生じますが、3本足でも元気に過ごしてくれることが多いです。しかし、全身麻酔での手術や痛みに耐えないといけない大きな壁もあります。獣医さんとよく相談のうえで最善の治療を考えてあげてください。苦しみが少しでも軽くなるよう祈っております。
ユッチ
2020-07-01 18:49:59
皆さんのコメントを
読んでて辛い思いをされてるんだな、うちの子だけではないと、
涙が出てきました。
去年の12月頃から前足にシコリができ、4月にMRI検査で
悪性腫瘍だと診断されました。完治するには前足切断しかない
幸いにも食欲、元気はありますが
どうして良いのか辛いです。
にゃんたま
2020-06-30 12:20:45
5月初旬から体調に異変を感じ病院にいったところ、肺がんで余命1ヶ月と診断されました。セカンドオピニオンも行ない、抗生剤の注射、ステロイドの服薬など色々と行ない、家では酸素ハウスをレンタルして闘病しています。残念ながら治る病気ではないので、いかに苦しまず日々を過ごせるかを一番に考えて出来ることを行なっています。

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