病気と上手く付き合おう(07) <アトピー性皮膚炎>

 

 

わが子の愛らしい寝顔を見つめながら、「ずっと健康でいてほしい」と祈るような気持ちでつぶやいた経験のある飼い主さんも多いのではないでしょうか。一方で、体質や遺伝が原因となったり、加齢に伴って起こったりする病気もあり、予防や完治が難しい病気もたくさんあります。我が家のどうぶつが病気になったとき、少しでも良い状態で過ごせるよう、しっかりと支えてあげたいですね。
そのためには、動物病院での処置や治療はもちろん大切ですが、食生活などの普段の生活環境が 重要な役割を果たします。そこでお世話をされる飼い主さんとどうぶつが、病気と上手くつきあうために大切なことを紹介いたします。
今回は「アトピー性皮膚炎」についてご案内します。

 

どんな病気?

 

本来であれば無害、あるいは害が少ない異物であるにもかかわらず、異物の侵入に対して体内で過剰な免疫反応が起こっている状態がアレルギーです。また、アレルギー反応により皮膚に症状が起こるのがアレルギー性皮膚炎です。
食物アレルギーであれば、「アレルゲンとなる食物を摂取しないことで症状を予防する」というように、アレルギーの原因となるアレルゲンをどうぶつの体内に入らないようにすることで、アレルギーの症状を緩和することができます。
一方で、ハウスダスト(※)のような環境中のアレルゲンが原因の場合は除去することが大変難しく、何がアレルゲンであるかを特定することが困難な場合もあります。
アトピー性皮膚炎とは、おもに環境中のアレルゲンを原因として、アレルギー反応による症状が皮膚に表れているものをいいます。アトピーとはさまざまな物質をアレルゲンと認識しやすい素因をいい、アレルゲンの特定が困難であることも特徴です。症状としては、痒み(かゆみ)と赤みを伴った「かぶれ」に似た慢性湿疹がみられます。
※ハウスダストとは、家の中のホコリやダニ(死骸や糞も含む)、カビなどのことです。体内に侵入することでアレルギー症状を発症するといわれています。

【発症の要因】
アトピー性皮膚炎の発症には、次の3つが関与していると考えられています。

1.遺伝的な要因
柴犬、シーズー、ゴールデン・レトリーバー、ラブラドール・レトリーバー、シェットランド・シープドッグ、ウエスト・ハイランド・ホワイト・テリア、ボストン・テリアなどの犬種は、遺伝的にアトピー性皮膚炎を発症しやすいことで知られています。ネコちゃんでも同様に遺伝の関与が指摘されています。「遺伝的な異常により、正常であればあまり作られることのないIgE抗体が多く作られるからではないか」と考えられています。

2.皮膚のバリア機能が正常に働かない
皮膚の最も外側の角質層が上手く作られず、皮膚が乾燥した状態(ドライスキン)や脂っぽい状態(脂漏)になるので、皮膚のバリア機能が適切に働かなくなります。このように皮膚からアレルゲンが 侵入しやすい状態になると、ハウスダスト、花粉など、環境中のアレルゲンに敏感に反応してしまい、アトピー性皮膚炎を発症しやすくなると考えられています。

3.環境要因
気温や湿度、ストレス、発情など、さまざまな環境の要因が症状に関わっていると考えられています。

【症状】
一般的には6ヶ月から3歳くらいまでの比較的若い時期に発症します。特徴的にみられるのは、耳、手肢の指間、腋下部(えきかぶ=わきの下)、鼠径部(そけいぶ=下腹から内股にかけての部分)、関節の屈曲部の皮膚にみられる炎症です。強い痒みのために、患部をかきむしったり、かんだり、こすったりする様子がみられます。

【診断】
現在のところ、ワンちゃんやネコちゃんのアトピー性皮膚炎を直接「確定診断」する方法はありません。「痒みの強い皮膚炎」を一つ一つ検査し除外していくことで診断します。
次にワンちゃんやネコちゃんで見られる「痒みの強い皮膚炎」のうち、5本の指に入る疾病を挙げてあります。この表の1〜4の皮膚炎は検査により確定診断ができ、治療により完治、あるいはかなりの症状の改善が見込めます。1〜4のいずれでもない場合にはアトピー性皮膚炎である可能性が高くなります。

表 5大「痒み(かゆみ)の強い皮膚炎」
 

病名 原因/診断に必要な検査/予後
外部寄生虫性皮膚炎 【原因】ノミ・疥癬(カイセン)・毛包虫(ニキビダニ)など
【診断に必要な検査】治療により完治する (ただし、毛包虫は再発の可能性があり、生涯にわたっての治療が必要なこともある)
【予後】治療により完治する (ただし、毛包虫は再発の可能性があり、生涯にわたっての治療が必要なこともある)
細菌性皮膚炎 【原因】黄色ブドウ球菌などの細菌
【診断に必要な検査】皮膚スタンプ検査
【予後】治療により完治する
真菌性皮膚炎 【原因】マラセチアや皮膚糸状菌などの真菌
【診断に必要な検査】皮膚スタンプ検査、真菌培養検査など
【予後】治療により完治する
食物アレルギー 【原因】特定の食べ物に対するアレルギー反応
【診断に必要な検査】除去食試験、アレルギー検査(血液検査)など
【予後】食事療法により改善する
アトピー性皮膚炎 【原因】環境中のアレルゲンに対するアレルギー反応
【診断に必要な検査】上記の検査すべて
【予後】完治は難しい

 


皮膚病は、実際にはいろいろな原因が重なり合って起こっていることが多く、アトピー性皮膚炎のどうぶつは食物アレルギーや膿皮症やマラセチア性皮膚炎などの感染性の皮膚炎を併発することも多いので、診断は容易ではありません。そのため、まず1〜4の「治すことのできる皮膚病」を確実に見つけて治療することが重要です。
それが治っても、なお症状が残る場合にはアトピー性皮膚炎の可能性が高くなります。

【治療】
現在行われているアトピー性皮膚炎の治療には、いろいろな方法があり、それぞれメリット、デメリットがあります。どうぶつの体調や生活環境などを考え、飼い主さんと相談しながら、その子に一番あった治療法を選択していきます。

1.ステロイド剤(副腎皮質ホルモン剤)
即効性があり、ほぼ100%のどうぶつで症状の改善がみられます。ただし、痒みと赤みを軽減するための対症療法ですので、投薬を止めると再発します。
ステロイド剤は安価で、上手に使えばとても良い薬ですが、高用量を長期に連用すると副作用が起こりやすくなります。全身性の副作用が少ないスプレータイプの外用薬もありますが、この場合も適切な 使用量を主治医の先生に確認しながら使用することが重要です。

2.抗ヒスタミン剤
ヒスタミンはどうぶつの組織の中に広く存在して、アレルギー反応や炎症が起きたときに活性化する 化学物質であり、血管を拡張させるとともに、痒みの原因にもなります。抗ヒスタミン剤は、ヒスタミンの活性を抑える薬です。安価で副作用も少ないのですが、単独で効果が出ることは、まれです。

3.免疫抑制剤
アレルゲンに対して免疫が過剰に反応することを抑える薬です。ステロイドに比べると副作用が少ないのですが、効果が出るまでに時間がかかります。約70%のどうぶつに症状の改善がみられます。薬の種類にもよりますが比較的高価です。ステロイドと同様に止めると再発しますが、症状にあわせて投薬ペースを減らすことができる場合もあります。

4.インターフェロン療法(犬)
免疫のバランスを修正するインターフェロンの作用を利用して、アトピー性皮膚炎の症状を緩和させる比較的新しい治療法です。インターフェロンとは、体がウイルスに感染したときに反応して作られるタンパク質であり、ウイルスを攻撃したり増殖を抑制したりする働きがあります。それを薬として体内に取り入れます。症状の改善は70%前後のワンちゃんで認められます。
副作用は少ないのですが、注射で行うため費用と手間がかかり、効果が認められるまで時間を要します。
インターフェロンにはウイルスの増殖を抑える働きが強い?型(IFN-アルファ(α)、ベータ(β)、オメガ(ω)など)と?型よりも免疫系への作用が強い?型(IFN-ガンマ(γ))があります。
?型(IFN-ガンマ(γ))は免疫系に作用することから、アレルギー性皮膚炎に有用だといわれています。ただ、どうぶつ種によって特異性が強く、現在どうぶつ用に販売されている?型(IFN-ガンマ(γ))は ワンちゃんだけに使用されるものとなっています。
一方、どうぶつ用のIFN-オメガ(ω)は感染症対策に有用であるといわれており、ワンちゃんにもネコちゃんにも利用が可能なものとなっています。

5.減感作療法
アレルギーの原因となっているアレルゲンを少しずつ投与することで、そのアレルゲンに体を慣れさせていき、アレルギー反応が起こらないようにするという治療法です。アレルギーを治すための唯一の 根本的治療法といえますが、効果が出るまでにかなり時間がかかります。症状の改善は70%前後のどうぶつで認められるといわれています。治療開始時に特殊なアレルギー検査が必要です。治療は注射で行うため、費用と手間がかかります。

その他にも、皮膚に栄養を与えると共にバリア機能を改善することを目的として、脂肪酸製剤のような栄養補助食品を摂取したり、皮膚に直接スポット剤やスプレー剤を塗布したりします。食物アレルギーを併発しているアトピー性皮膚炎のどうぶつには、食物アレルギー用の療法食を与えることが推奨されます。これらの効果が出るまで2〜3ヶ月かかることがありますが、薬物療法と併用している場合には、薬の量を減らせることもあります。
アトピー性皮膚炎の管理には、皮膚の状態に合わせた適切な薬用シャンプーの使用も勧められています。

 

 

 

 

看護のポイント1 投薬について

 

 

 

アトピー性皮膚炎に処方される薬には、「痒みや赤みなどの症状を抑えることを目的とした薬(ステロイド剤、抗ヒスタミン剤、免疫抑制剤など)」と「細菌や真菌などの二次感染を抑える薬(抗生物質や抗真菌剤など)」があります。処方された薬は、主治医の先生の指示に従ってきちんと飲ませるようにしましょう。特に、抗生物質や抗真菌剤などは、適切な飲ませ方をしないと効果がないばかりか、薬剤耐性菌(※)の原因となってしまうことがあります。どうぶつが投薬を嫌がって飲ませられない場合や、ご家庭の事情などで投薬が難しい場合などは、主治医の先生にご相談下さい。
※同じ薬を続けて服用することにより、菌が薬に対して抵抗力を持ってしまって薬が効きにくくなってしまう状態をいいます。

 

看護のポイント2 シャンプーについて

 

 

アトピー性皮膚炎を管理するためにはシャンプーを行うことも重要です。シャンプーの目的として、次のようなことが挙げられます。
1.身体についたアレルゲンを洗い流す
2.細菌やカビの繁殖しづらい皮膚環境を作る
3.皮膚のバリア機能を改善し丈夫な皮膚を作る

シャンプー療法は、薬物療法のみに頼らずにアトピー性皮膚炎を管理するとても良い方法ですが、間違った方法で行うと、皮膚に余計なダメージを与えてしまうことがあります。
どうぶつの皮膚の状態にあったシャンプーを選択し、優しく洗ってあげることが重要です。

【シャンプーの仕方】
刺激が少なく、どうぶつの皮膚の状態(乾燥、脂症、感染など)にあったシャンプー剤を選びます。お湯の温度は、高すぎると痒みが増し、皮膚に刺激を与えますので、25〜30度くらいが良いといわれています。ただ、同じ温度であっても冬場はかなり冷たく感じると思います。
どうぶつの様子を観察しながら、無理のない程度で温めのお湯を使ってあげてください。
ワンちゃんの皮膚の厚さは、人間の皮膚の5分の1程度といわれています。シャンプー剤を直接 皮膚につけてゴシゴシしてしまうと簡単に傷ついてしまい、それが痒みの原因となることもあります。あらかじめ、毛先だけでなく皮膚もぬるま湯でしっかり濡らしておき、泡立てたシャンプー剤で皮膚を優しく包むように洗います。しばらくそのままシャンプー剤を漬け置きして成分を浸透させ、そのあと十分洗い流すようにしてあげて下さい。タオルドライをする時も皮膚をこすらないように、優しく水気を取るようにしましょう。
シャンプー後に痒みや赤みがひどくなる様であれば、シャンプー剤が合わなかったり、すすぎが不十分だったり、シャンプーすること自体が刺激になったりしている場合があります。主治医の先生とご相談下さい。

 

看護のポイント3 乾燥に注意

 

冬場は室内の乾燥に伴い、どうぶつの皮膚も乾燥しがちになります。皮膚は乾燥すると小さな 刺激にも敏感になり、痒みの症状が悪化しやすくなります。皮膚が乾燥しているようであれば、保湿効果の高いシャンプー剤を使用したり、保湿剤を使用したりすると良いでしょう。
どうぶつ用の保湿剤には、スプレータイプやスポットオンタイプの物など、いろいろな種類がありますので、主治医の先生に相談してみましょう。もちろん部屋の加湿を行うことも重要です。

 

看護のポイント4 丈夫な皮膚をつくることが大事

 

 

皮膚のバリア機構が低下しているどうぶつは、外部からの刺激を受けやすい状態になっており、細菌などの微生物や環境中のアレルゲンが容易に皮膚に侵入して、皮膚症状を悪化させます。
必須脂肪酸(オメガ(ω)3、オメガ(ω)6)は皮膚のバリア機構を改善し、皮膚の炎症を軽減する働きがあります。刺激に負けない丈夫な皮膚をつくるために、そのような成分の配合された栄養補助食品や療法食を利用することも一つの方法です。シャンプー剤や保湿剤にもそのような成分が配合されているものもありますので、使用してみても良いでしょう。

 

看護のポイント5 室内環境の整備

 

 

アトピーのどうぶつの多くは、室内のハウスダストに対してアレルギーを持っており、ハウスダストが体内に侵入することによりアレルギー症状が発症するといわれています。
これらのハウスダストを生活環境から完全に取り除くことは不可能ですが、少しでも減少させることで症状を和らげる可能性があります。

【掃除】
ハウスダストを減らすためには、こまめな掃除が必要です。特に拭き掃除が有効です。掃除機をかけるとハウスダストが舞い上がりますので、先に拭き掃除を行うと良いでしょう。
掃除機をかけるときは、換気を良くして行いましょう。ハウスダストを舞い上がらないようにするハウスダスト除去スプレーなどを利用することも効果的です。

【ハウスダストを減らす生活環境】
ぬいぐるみや布製のソファー、じゅうたんやラグ、畳などは、ハウスダストの一つであるダニが生息しやすいことで知られており、フローリングやクッションフロアの方が生息しづらいといえます。
ダニの温床となりやすいものは極力排除するのが望ましいでしょう。排除することが難しいものはこまめに掃除するようにしましょう。布製品は、こまめに洗濯し、日光に当てて良く乾かすことが大事です。また、ハウスダスト対応の空気清浄機などを利用するのも効果的でしょう。

アトピー性皮膚炎は、主な原因である環境中のアレルゲンを完全に排除することができないので、完治がたいへん難しい病気です。そのため、アトピー性皮膚炎の治療は、できるだけ症状を軽減して苦痛を和らげ、QOL(生活の質)を上げることが目標となります。
完全に良くなることにこだわり、薬を使い過ぎてどうぶつの身体に余計な負担をかけるよりも、多少症状は残っていても、それほど苦痛ではない程度で維持してあげる方が良いかもしれません。
それがどの程度なのかを見極めることができるのは飼い主さんです。我が子の状態を観察しながら、どの程度まで、どのように治療していくかを、主治医の先生と良く話し合いながら決めていく必要があります。

 

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