災害時に愛犬とあなたを守るしつけ

2022.12.08

さまざまなペットのなかでも、ワンちゃんは人とふれあう機会がもっとも多い、社会性を持つ動物です。それだけに、共に暮らすにはもっとも責任や倫理感が求められる動物でもあると言えるでしょう。

 

環境省は「災害時におけるペットの救護対策ガイドライン」のなかで、災害発生時はペットの同行避難が原則と明記しています。これは犬をはじめとするペットを社会の一員として見なす、ひとつの表れでもあるでしょう。

 

しかし、同行避難を余儀なくされたとき、多くの人が集まる避難所には、動物が苦手な人もいれば、動物アレルギーを持っている人もいます。また、普段は穏やかな子であっても、被災して怯えているときは、一時的に攻撃的になる可能性も十分考えられます。

 

飼い主さんがしっかりとコントロールできる状態にしておくことは最低限のマナーであり、災害時をワンちゃんと共に乗り切るためにも、とても大切なことなのです。

 

そこで、実際に災害が起きてワンちゃんと同行避難する場合に、最低限必要になるであろうしつけや号令を、アニコムのドッグトレーナーがピックアップしました。しつけに自信がない方はもちろん、普段しっかりしつけをしているという方も復習のつもりで、ぜひ目を通してみてください。

社会化トレーニング


避難所生活を想定した場合、不特定多数の人たちと知らない場所で、ワンちゃんがある程度ストレスなく生活をするためには、社会化トレーニングが欠かせません。いろいろな刺激に慣れていないと、ワンちゃんにもかなりの負荷がかかり、避難所生活自体が相当つらいものになってしまうかもしれません。

 

また、飼い主さんも、ワンちゃんがストレスを感じていれば不安でしょうし、他の人に対して吠えたり、攻撃的になったりしたら、「周りの人に迷惑をかけている」とストレスを感じてしまうでしょう。

 

社会化トレーニングは、いろいろな場所で行うのが理想です。たくさんの人と触れあったり、さまざまな体験を通して社会性を身につけさせてください。最近では保育園やホテル、病院など、ワンちゃんを預けられるさまざまな施設があります。そのような場所で、ある程度まとまった時間飼い主さんと離れて過ごすことができれば、災害時にも役に立つはずです。最初は短い滞在時間から始めて、徐々に長くしていくとよいでしょう。

クレートトレーニング


避難所でのワンちゃんたちは、おそらくクレートなどに入って過ごしてもらうことになりますが、クレートに慣れていないワンちゃんには、かなりのストレスになるかもしれません。

 

また、災害時に限った話ではありませんが、ワンちゃんを車に乗せて移動する際に、万が一不慮の事故が起きても、クレートに入っていれば命を守れるでしょう。避難の際に車を使うこともあるでしょうから、そのためにもクレートに慣れておくことが大切です。

 

クレートトレーニングのもっとも簡単な方法は、おでかけする際、毎回クレートに入れた状態で連れて行くことです。最初はクレートに対してネガティブなイメージがあったとしても、「ここに入れば楽しいところに連れて行ってもらえる」と印象づけていくことで、抵抗なく受け入れるようになるでしょう。

 

いろいろな場所にクレートで出かけて、行った先で休憩させる際にもクレートで休ませれば、クレートトレーニングだけでなく、社会化トレーニングにもつながり、一石二鳥ですね。

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身体のどこでも触れるようにする


例えば避難をするとき、がれきなどで肢を切ってケガをする可能性も考えられます。その際、触られるのをいやがるようでは治療ができなくなってしまうので、日ごろから身体のさまざまな部分を触れるように慣らしておきましょう。飼い主さんだけでなく、他の人が触っても大丈夫な状態が理想的。社会化トレーニングの一環としても効果的です。

 

ワンちゃんにとって、肢先や顔まわり、首は本能的に触られるのが苦手な場所です。最初は背中や胸、お尻から触りましょう。慣れてきたら、その延長で肢の付け根から肢先に向かって少し触ってみたり、胸から首の方に触っていくなど、徐々に触れる範囲を広げていけば、慣れていくはずです。

 

毛並みに沿って触ってあげるとリラックス効果も期待できますので、普段のスキンシップのなかで練習するとよいでしょう。

号令編① ハウス


前述のとおり、避難所ではクレートのなかで生活することになりますので、「ハウス」の号令できちんとクレートのなかに入ることができないと、避難所での生活がスムーズにいかなくなる可能性もあります。

 


また、地震が起きた際、ハウスやクレートに入っていたほうが、万が一何かが倒れてきたときでも直接ワンちゃんにあたらずにすみます。「ハウス」の号令でクレートに入るよう教えておくと、とても便利で安心です。たとえば、ごはんをクレートの中であげたり、お出かけで、車に乗るときなどに必ず「ハウス」と号令をかけクレートに入れるようにして覚えさせましょう。

 

無理やり入れたり、体を押すことは禁物です。初めのうちはごほうびでクレートに誘導するとよいでしょう。

 

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号令編② まて


大前提として、ごはんのときのおあずけの「まて」と、災害時などに使う「まて」は、意味合いが異なります。

 

例えば、避難する人の中で、飼い主さんとはぐれてしまったような場合を考えてみましょう。どんな状況でも「まて」ができるように練習していれば、飼い主さんの「まて」の号令で、ワンちゃんはその場にとどまるので、捕まえにいくことができるのです。

 

また、散歩中にリードを離してしまったり首輪が抜けたときにも、その場で「まて」ができると、車道に飛び出したりそのまま逃げてしまうということを防げるので、日常生活のなかでもいざというときに役立つ号令です。

 

この場合、長い時間、飼い主さんから離れたところでも「まて」ができるということが、重要なポイントです。何度も「まて」と声をかけてもいいですし、ごほうびを使ってもOK。命に関わることですから、どんな手段を使ってでも、とにかくその場にいさせることができれば大丈夫です。「待っていて!」という気持ちを伝えられるよう、念を込めて号令をかけてください。

 

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号令編③ おいで


危険が迫っていて少しでも早く避難をしなければいけないとき、ワンちゃんがすぐそばまで来てくれなければ、リードもつけられませんし、抱っこもできません。

 

もちろん、飼い主さんの方から捕まえに行ってもよいのですが、被災直後はご自身も動揺しているでしょうし、ワンちゃんの方もびっくりしている状態でしょうから、怖がって逃げてしまうこともあり得ます。一番確実な方法は、「おいで」で呼び戻すことです。

 



どんなに上手に「まて」や「ハウス」ができても、呼び戻すことができなければ、効果を発揮しません。家の中でのちょっとした距離からでも、きちんと「おいで」ができるようにしておけば、災害時でもきっと役に立つでしょう。

 

また、これはレアケースですが、飼い主さんとはぐれてしまったときに、知らない人から「おいで」と言われて呼び戻しできれば、保護してもらえる確率も高まります。飼い主さん以外の方からの号令を聞く機会が作れるようなら、社会化トレーニングにもつながりますので、ぜひ試してみてください。

 

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号令編④ トイレ


家の中の所定の場所でトイレをできるようにするのが一般的なトイレトレーニングですが、災害時は自宅ではない場所での避難生活が想定されます。「トイレ」や「ワンツー」などのかけ声に合わせて、トイレシーツ1枚あればどこででもトイレができるということも、万が一に備えてやっておきたいトレーニングのひとつです。

 

具体的には、おしっこやうんちをしそうだなと思ったら排泄が終わるまで「トイレ」や「ワンツー」といった号令をかけ続け、行動と号令を関連付けることから始めます。どのような状態が排泄しそうなときか見極めが難しければ、排泄している最中に声をかけ続けてもいいでしょう。そして排泄が終わったら「おりこうだったね」とほめてあげてください。

 

もちろんトイレの度に毎回教えられれば理想的ですが、仕事などで家を空ける時間が長い方でも大丈夫です。少しずつでもワンちゃんは学習していきます。できる範囲で根気よくトレーニングを続けてみてください。

 

この号令は、男の子で、あちらこちらにマーキングをしてしまうワンちゃんにも有効です。トイレは飼い主さんの許可が必要、というルール作りをしていきます。基本的には外で行うトレーニングですが、外でできるようになれば、家の中ででも、ある程度はできるようになるはずです。

 

男の子でなくても、例えば高速道路の、パーキングエリアに入ったタイミングで排泄してほしいときなどに号令でできるようにしておくと、車中で粗相をする心配もなくなるので、覚えておくと便利です。

その他、こんなときにはどうすればいい?

・ワンちゃんのサイズ別に考えるべきことはある?
大型犬の場合、ワンちゃん自身の扱いやケアが大変なのはもちろんですが、まわりの人への配慮という点が、一番の負担ではないかと思います。

小さい子であれば周囲もなんとなく「大丈夫かな」という気持ちになるかもしれませんが、サイズが大きいだけで「ちょっと怖い」と思われてしまったり、吠え声やニオイも小さい子に比べれば強いでしょう。

だからこそ、大型犬はより一層、しつけにも気をつけなければいけないかもしれません。

 

・車に慣れていない、もしくは車酔いする場合は?
避難する際の移動手段として車を利用することも当然考えられますから、車に乗ることに慣らしておくのも大切です。車が苦手だからといってためらっていると、いざというときに、ワンちゃんも飼い主さんも大変です。

車酔いも、しつけというより慣れの問題。最初は短い時間だけ乗せて、少しずつ乗っている時間を長くしていくと、徐々に慣れていくでしょう(ワンちゃんの体質によってはこの限りではありません。車酔いがひどい場合は動物病院に相談するとよいでしょう)。

 


・パニックになっていたり、怯えているワンちゃんを落ち着かせるには?

一番簡単な方法は抱っこです。持ち上げる必要はないので、大きい子はギュッと抱きしめるだけでもいいでしょう。「大丈夫だよ」という気持ちをハグで伝えることは、人間だけではなくて、ワンちゃんに対しても間違いなく有効です。

最後に

災害のときにこそ、飼い主さんとワンちゃんの”きずな”が求められるのではないかと思います。

 

普段から「飼い主さんの言うことを聞いていれば絶対に安心」という信頼関係を作っておかないと、いざというときにワンちゃんをコントロールしようとしても無理でしょうし、何より、一番つらい思いをするのはワンちゃんです。

 

災害時というのは、普段のしつけがもっとも発揮される場面であると言えるでしょう。ぜひ日々のしつけを大切にして、災害時であろうとどんなときであろうと、ストレスなく過ごせるようなパートナーシップを築いていただければと思います。

公開日:2019.3.3