呼吸が苦しいときのサイン
ターミナル期のどうぶつは、さまざまな原因から呼吸の苦しさに悩まされることがあります。
呼吸のつらさは、どうぶつのQOL(Quality of life=生活の質)を低下させるとともに、
看護する飼い主さんにとっても大きな心の負担となります。
原因によっては正常な呼吸状態に戻すことが難しい場合もありますが、
適切な状況把握とサポートで、少しでも楽に過ごせるようにしてあげたいですね。
どうぶつは呼吸が苦しいと感じてもそれを言葉で伝えることができません。
どのような様子が見られたとき、犬や猫が呼吸の辛さを感じている恐れが
あるのでしょうか。サインを早めに見つけて対処してあげられるようにしましょう。
◇じっとして動かない ◇呼吸数が多い ◇体全体で一生懸命に呼吸している(努力性呼吸)
◇口を開けて呼吸する(開口呼吸) ◇長時間咳が続く ◇呼吸の際ゼーゼーという音がする(喘鳴)
◇横になって休むことができない ◇(犬で)首を伸ばして前肢を突っ張る姿勢
◇(猫で)前肢を開いて胸腔を広げようとしたり、背中を丸める姿勢
◇よだれを垂らす ◇チアノーゼ(※)がみられる
※チアノ−ゼとは、血中の酸素濃度が低下することにより、皮膚、舌、爪の色が暗赤色や紫色になる状態をいいます。
呼吸困難の原因
犬や猫に呼吸がつらそうな症状がみられるときは、おもに次のような原因が考えられます。
・心疾患、肺疾患、気管支疾患など、循環器系や呼吸器系の疾患による影響
・胸水や腹水がたまっている
・重度の貧血を起こしている
・肺の腫瘍(原発性肺がんや他のがんの肺転移)あるいは気管や気管支等の腫瘍による影響
呼吸困難の原因によっては、治療で改善できる場合もあります。そのためには、呼吸困難が起こっている原因を特定することが重要です。
原因の特定は、胸部レントゲン検査や血液検査、エコー検査などの各種検査によって行います。
ただし状態が良くない場合、検査のために横向きや仰向けの姿勢をとることや、検査に抵抗して暴れたりすることで呼吸困難の症状が悪化してしまうこともあるため、慎重に行う必要があります。
呼吸困難が見られた時のチェックポイント
どうぶつの呼吸状態に異常があり、動物病院を受診するとき、次のようなことが分かると原因を特定する手助けになります。できればあらかじめメモを取っておくなどして、通院の際に主治医の先生に伝えるようにしましょう。
1.いつから症状が見られたか
2.どのような時に呼吸困難が見られたか
(例) 興奮時や運動後のみ見られる/安静にしていても常に見られる など
3.咳やくしゃみ、鼻水等が見られるか
4.咳をしている場合、乾いた咳か、湿った咳(痰がからんだような咳)か
5.呼吸をするときゼーゼーという音が聞こえるか
6.息を吸うときと吐くときとどちらが苦しそうか
7.チアノーゼがみられるかどうか
また、呼吸の様子を先生に見ていただかないと診断が難しいこともあります。
お家で呼吸の症状があったときの動画を携帯電話等で撮影しておき、診察時に主治医の先生に診ていただくと、診断の助けになるかもしれません。
呼吸困難の治療
どうぶつの呼吸困難の治療には、大きく分けて「呼吸困難の原因に対する治療」と「呼吸困難の症状を緩和させるための治療」があります。
1. 呼吸困難の原因に対する治療
呼吸困難の原因を取り除くための治療です。例えば、胸水や腹水の貯留が原因の呼吸困難の場合は、利尿剤を投与したり、穿刺(せんし)※して貯留液を抜き取る処置を行います。また、気管支炎や肺炎が原因の場合は、抗生物質や抗炎症剤の投与などを行います。このほかにも、重度の貧血が原因の場合には、貧血の原因を特定して治療を行ったり、輸血を検討します。
気管支炎、喘(ぜん)息、心疾患などの持病があり、その悪化による影響が原因と考えられる場合にはそれぞれの疾患の治療を行います。
※穿刺とは、病気の診断や治療のため、腹腔や胸腔などに針や専用の器具を刺すことをいいます。
2. 呼吸困難の症状を緩和させるための治療
呼吸困難の症状が起こる原因を取り除くのが難しい場合には、原因に対する治療と並行して、少しでも呼吸を楽にして息苦しさを和らげてあげる治療を行います。
(1)酸素療法
空気よりも高濃度の酸素を吸わせることで、低酸素状態になっている組織に酸素を供給して、「息苦しい」という自覚症状を和らげる治療です。
人で酸素療法を行う際は鼻カニューレ(酸素供給器から酸素を 送り込むために鼻腔につける細いチューブ)や酸素マスクなどを利用することがありますが、どうぶつの場合は装着が難しいことが多いため、多くの場合、ケージ自体の酸素濃度を調整した酸素室を利用します。
ICUケージを持つ動物病院では、入院中、そのようなケージで酸素療法と温湿度管理を行います。
酸素濃縮器や酸素ボンベ、酸素ハウスのレンタルを行っている業者さんがありますので、獣医師のご指示の元、自宅で酸素療法を行うこともできます。
自宅で酸素療法を行う場合、酸素ケージの中の酸素濃度や温度、湿度が適切に保たれるかどうかが大変重要なポイントです。主治医の先生とご相談の上、信頼できる業者さんを利用し、ご自宅での設置にあたり、ご不明な点は きちんと確認するようにしましょう。
なお、季節によっては、酸素室内の温度や湿度の調節が難しいことがあります。特に夏の暑い時期に酸素室内が高温になると呼吸状態に悪影響を及ぼし、大変危険です。エアコンを用いて部屋全体を 冷やすのが望ましいのですが、難しい場合には、ペットボトルに水を入れて凍らせたものを酸素室の中や周辺に置き、適温に近くなるよう工夫しましょう。酸素室の中にペットボトルを入れるときには、タオルなどでくるんであげると良いでしょう。
(2) 薬物療法
対症療法として、気管支拡張剤や鎮咳(ちんがい)剤、去痰(きょたん)剤、ステロイドを含む抗炎症剤などを使用して呼吸が楽になるような薬物療法を行います。息苦しいという自覚症状を緩和させるために鎮静剤を使用する場合もあります。
息苦しさを緩和するためにお家でできる工夫
ターミナル期のどうぶつに見られる呼吸困難は、残念ながら治療で完全に正常な状態にすることは難しい場合もあります。ただ、少しでも息苦しさを緩和して穏やかに過ごしてもらうためにお家でできることもあります。
1. 生活環境の整備
どうぶつの普段の生活環境を適切に整えることは大変重要です。特に、温度や湿度は呼吸状態に影響を及ぼすため、適切に保たれているかチェックするようにしましょう。
犬の場合は人が快適だと感じる温度より、やや低めに保ってあげると呼吸を楽に感じることが多いようです。
ただ、乾燥すると痰が出しづらくなったり、気道感染を起こしやすくなりますので、気候に応じた適度な湿度を保つようにしてあげましょう。
また、埃やハウスダスト、たばこの煙なども呼吸困難を悪化させる原因になることがあります。
衛生状態に気を配り、こまめな清掃や換気を心がけましょう。
どうぶつが居る部屋では禁煙していただいた方が良いでしょう。
この他、トイレや食事をする場所を寝床の近くにするなど、「動き回る負担を少なく過ごせる配置を考える」、あるいは、「いつも過ごす場所は、静かに落ち着いて過ごせる場所にする」など工夫してあげましょう。特に興奮すると呼吸困難が悪化することがあります。外の様子が見えたり玄関に人の出入りが あると、気になって興奮してしまう傾向があるので注意が必要です。
2.楽な姿勢を探してあげよう
呼吸の状態、痛みの場所や強さなどの違いから、一番楽だと感じる姿勢はどうぶつによってそれぞれです。我が子が一番楽な姿勢を探してあげましょう。
苦しくて横になれないこともありますが、段差のある場所を利用して居場所を作ってあげたり、長時間呼吸が楽な姿勢を維持できるようにクッションなどでサポートしてあげると良いでしょう。
ただし、同じ姿勢をずっと取り続けることは褥創(じょくそう=床ずれ)を引き起こしたり、別の痛みの 原因になってしまうこともあります。無理のない範囲で定期的に姿勢を変えてあげることが必要です。
3.痰を出しやすくするには
痰が上手く出せないと、不快に感じたり呼吸困難を悪化させる原因になります。少しでもスムーズに 排出できるようにしてあげたいですね。痰は水分が少なくなると粘り気が強くなり排出しづらくなります。水分を十分摂取させることで痰を軟らかくし排出しやすくしてあげましょう。
また、前述のように吸い込む空気が乾燥していても痰から水分が抜けて粘り気が強くなりますので、乾燥する時期には部屋を加湿することが効果的です。
4.息苦しさをなるべく感じないようにするために
息苦しさという自覚症状は、体や心の状態によっても感じ方が変わってきます。発熱や痛み、不快感 などがあると、息苦しさを強く感じる場合があります。体調をこまめにチェックして、治療で改善できるものについては早めに対処してあげるようにしましょう。
睡眠不足も体力や気力を奪い、呼吸困難を悪化させる原因になります。睡眠が取れているかどうかも気をつけてあげましょう。
息苦しさで眠れない様子が見られる場合、鎮静剤が効果を発揮することも ありますので、主治医の 先生に相談してみると良いでしょう。また、精神的な不安や恐怖、ストレスなどがあると息苦しさを強く感じてしまうことがあります。できるだけゆったりとした落ち着いた気持ちで過ごせるように心がけて あげましょう。
大好きな飼い主さんから話しかけてもらったり、なでてもらったりすることは、気持ちを落ち着かせる ためにはとても効果的です。息苦しそうな我が子を見ることはつらいことですが、飼い主さんの不安や苦痛をどうぶつは敏感に感じ取ります。まずは飼い主さん自身が落ち着いて、我が子が一番安心 できる笑顔で接してあげられると良いですね。
呼吸困難が悪化してきたら
病気が進行して末期になると、呼吸困難が悪化し、低酸素血症(血液中の酸素濃度が低下した状態)から意識障害や痙攣(けいれん)などが見られる場合があります。また、急激に呼吸状態が悪化する こともあります。かかりつけの動物病院の休診日や夜間などにそのような状態になってもあわてない ように、あらかじめ対応方法を主治医の先生と相談しておくと良いでしょう。
意識障害や痙攣などが見られると、どうぶつがひどく苦しんでいるのではないかと心配になりますが、意識を失っている間はどうぶつは苦しみや痛みを感じていないと言われますので、落ち着いて対処してあげてください。
あらゆる治療やサポートをしても呼吸の状態を改善できず、どうぶつがかなり強い苦痛を感じていると判断される場合には、「安楽死」という選択も視野に入れて考える必要があるかもしれません。
「安楽死」については、いろいろな意見や考え方があると思います。
とてもつらいことですが、どんなどうぶつにも必ず最期のときはやってきます。
愛する我が子の最期をどのように迎えさせてあげたいか、あらかじめご家族や主治医の先生とよく話し合っておかれると良いと思います。
コメント欄は経験談、同じ病気で闘病中等、飼い主様同士のコミュニケーションにご利用ください!
記事へのご意見・ご感想もお待ちしております。
※個別のご相談をいただいても、ご回答にはお時間を頂戴する場合がございます。どうぶつに異常がみられる際は、時間が経つにつれて状態が悪化してしまうこともございますので、お早目にかかりつけの動物病院にご相談ください。
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出来る限り苦しまずに過ごさせてあげたいと思っていますが、他に出来ることはありますか?
まずは、静かに落ち着いて過ごせる場所を確保し、安定した生活を心がけてあげましょう。食事が自分で採れるようであれば、食べやすい位置に食べやすい形状のごはんやお水を準備して、必要であれば補助してあげると良いでしょう。また、飼い主様がそばにいてくれることで安心感を得ることができるので、撫でたり優しく声掛けをしてあげて下さいね。
しかし、ここ数日また呼吸があらくなってきました。
高齢なため前回麻酔なしで胸水を抜きましたが、この麻酔なしというのはとても負担のかかる苦しいものなのでしょうか。もうこれ以上の辛い治療はやめた方が良いのでしょうか。
ねこちゃんが嫌がってしまう場合には鎮静や麻酔をかけて胸水を抜くこともありますが、麻酔なしで処置をすることも多いです。胸水が溜まると呼吸が苦しくなってしまうため、一時的にでも呼吸が楽にするために繰り返し胸水を抜くという選択肢をとる場合もあります。今後の方針については、かかりつけの先生ともよくご相談なさってくださいね。